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第21話
翌朝、ルイスがいつも通りに目が覚めて自習をしていると応接室で物音がした。
まだ少し早い気がするがクアンが来たのだろうか。
扉の隙間から覗くと上半身裸のジンが包帯を巻き直している。うまく巻けなけないらしく歪んだり緩くなって解けてしまっていた。 そのたびに首を傾げていて可愛らしい。
なんでも率なくこなすジンだが、包帯を巻くのは難しいようだ。
扉を開けて声をかけた。
「おはようございます、ジン様」
「おはよう」
「包帯を変えているんですか?」
「一人でやるのは結構難しいんだな」
「よかったらお手伝いします」
「悪いな。助かる」
これくらいならクアンに怒られないだろうとジンから包帯を受け取った。
傷はまだ痛々しく赤く腫れている。 布を貼った上に包帯で巻きつけようとするが、背中に包帯を通すとき抱きつく形になってしまい顔が熱くなる。
一糸まとわぬ素肌が朝日を浴びてきめ細やかな光を帯びる。鍛えあげられた筋肉が男らしく、腹筋も割れている。
触れる体温は高くてその熱に溶かされそうだ。
「顔が赤いが、どうした?」
「なんでもありません」
さっさと終わらせよう。 腕を精一杯伸ばして包帯を背中に通すのを何度も繰り返す。
心臓の音やジンの匂いに気取られそうになりながら も無心で巻いた。
「で、できました」
「ありがとう」
少し歪んでしまったが、ジンは気にした様子はない。それより口元を綻ばせて嬉しそうに見える。
(あまり上手ではないけど、及第点だよね)
残った包帯を救急箱にしまうとジンは制服を着替えた。
貴族や王族は一人で着替えをしない。だいたい側付きに手伝ってもらいながら着替えるのが普通なのに、ジンはいつもクアンが来るより先に身支度 をしていた。
(そういうところがジンっぽい)
王子だからと言って昔から身の回りのことを側付きにやらせるのを嫌っていた。
自分のことは自分でやるとよく怒っていたっけ。やはり成長していてもジンは変わらない。
昔と変わらないところを見つけると嬉しくなる。
「ジン様はあまり王子様らしくないのですね」
「俺もそう思う。そのせいで周りによく思われていないんだろうな」
だから戦闘訓練のとき誰も助けに入らなかったのだろうか。でも一国の王位継承者のジンに対して敬意がなさすぎやしないか。
(あれじゃまるでジンがどうなろうと関係ないみたいじゃないか)
さっと血の気が引いた。それじゃあそこにいた全員がジンが死んでもいいと思っていたのではないか。
恐ろしい事実に気づき、手が震えた。
「そんなに怖がらなくていい」
震えるルイスの手に重ねられたジンの手はとても温かい。骨ばった指は細く長く、傷一つない。 無性に泣きたくなった。
胸のなかに熱いものが込み上げてきて、目の表面に溜まる。瞬きでもしたら溢れてしまいそうだ。
体温を通じて生きていると実感をさせてくれる。 もう失うかもしれない思いはしたくない。
「あの……よかったら私をお側においてくれませんか?」
ジンは驚いたように瞬きをゆっくりした。ルイスの言葉の意味を咀嚼しているようだ。
「学園には騎士もクアンさんも入れないんですよね? またジン様が狙われるかもしれません。もしなにかあったときに盾にも矛にもなります」
「だが」
戸惑っている様子のジンに追い打ちをかける。
「この命にかえてもお守りします。どうかお側においてください」
祈るような気持ちで頭を下げた。平民の自分が王族の側付きになりたいと志願するなんて身分を履き違えている。 そんなのわかっている。 でもジンがルイスの知らないところで傷ついているのかもしれないと想像するのも嫌だった。
だったらいくらでもジンの身代わりにでもなる。 しばらく間をおいたあと、ジンはルイスの手をぎゅっと握った。
「ありがとう。ルイが側にいてくれると心強い」
「はい!」
ルイスもジンの手を握り返し、もう離さないと強い想いを込めた。
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