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第22話
貴族の教室は一般の教室とは全然違う。机は汚れ一つない新品で椅子にはふかふかのクッションが付いている。
天井にはシャンデリアがぶら下がり、このままダンスパーティーでもできそうなくらいだ。
しかも制服の色が違う。 貴族は白いジャケットで一般は紺色だ。 一目で普通科だと見分けがつく。
王族であるジンの口添えと助けた実績から貴族クラスで授業を受けることを許されたが、だからと言って誰もが 歓迎してくれるわけではない。
「なんで平民がいるのかしら」
「空気が悪くなる」
「なんかドブ臭くないか」
ギリギリ聞こえるか聞こえないかの音量でルイスのことを莫迦にする声が聞こえる。
なにか言われる分には無視をすればいいが、すれ違いざまに肩にぶつけられたり、せっかくの教材が切り刻まれたりすると惨めな気持ちになる。貴族はプライドが高い。
自分たちの方が立場が上だと権力や金を見せつけて市民を見下している。
だからぽっと出てきたルイスが貴族クラスにいることが許せないのだろう。
だがこんなことで落ち込んでいる暇はない。またジンの命を狙われる可能性がある。 座学中はジンの隣に座り、怪しい人物はいないか探った。
貴族なだけあってみんな容姿が整っているせいか、同じデザインの制服を着ているのにまるで舞踏会に行くような華やさがある。
でもジンを襲った男のように表面上は取り繕っているだけで本当はわからない。
もしかして貴族になりすました スパイがいる可能性もある。
キョロキョロと視線を彷徨わせてい ると隣のジンが指先で机を叩いて、ノ ートの文字を指さした。
『教科書はどうした?』
その言葉にはっとした。切り刻まれてしまいとても使い物にならないので、 部屋に置いてある。
(でもそれを言うと心配をかけてしまうよな)
ペンを手に取り、返事を書いた。
『忘れてしまいました』
『ルイにしては珍しい』
そう書いて教科書をルイスの方に寄せてくれた。そのさりげないやさしさに心に甘さが広がる。
(だめだめ。警護もしないと)
教師の話を聞きつつ、周りを警戒していると再びジンはノートに書いた。
『なにをしているんだ?』
『怪しい人がいないか警戒してます』
『それは頼もしい』
ジンは声も出さず笑った。その屈託のない笑顔を見られてよかった。
昼食はクアンが来るのでそばにいなくても大丈夫だろう。
一般の食堂に向かおうとするとジンに呼び止められた。
「どこへ行く?」
「一般棟に戻ろうかと。昼はクアンさんもいらっしゃいますし」
ジンの後ろに控えているクアンを見ると顔を険しくさせている。近寄るなと言われていた手前、昼食まで一緒にいるのは気まずい。
ジンは顎に指をかけて首を傾げた。
「もしかしたら食事に毒が盛られているかもしれない。ルイが毒味役をしてくれないか?」
「それはわたくしめが」
「クアンになにかあったら困る。ルイ、頼めるか?」
確かにその可能性があった。なにも正面から狙うだけが正攻法ではない。
案の定クアンは眉を吊り上げているがジンの手前しゃしゃり出られないのだろう。ルイスは頷いた。
食堂と呼ぶには失礼なほど豪奢な建物にテーブルや椅子はアンティークもの、食器はブランドものなのか宝石のようにキラキラしている。
しかも一般棟とは違い、料理名の書かれた食券を選び、料理と交換してあらかじめ取っておいた席に自分で持っていくのではなく、階級によって席は決められ給仕や付き人が運んできてくれる。
もちろん王族のジンは一段高くなった上座のテーブルで周りは観葉植物に囲われ、プライバシーが守られている。
メニューの種類も鹿やうさぎの肉、有機野菜や他国の果物、有名パティシエが作ったデザートの名前が並び、頭がくらくらしてきた。
「なにが食べたい?」
ジンからそう問われて背筋に汗が伝う。値段が書かれていないのでいくらなのかわからない。
基本学園は無料で生活できるが、ここまで高級な食材やシェフを呼んでいるとなると貴族側が多額の援助をしているのだろう。一銭も払っていないルイスが食べるわけにはいかない。
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