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第25話
Bクラスを覗くとアドルフはちょうどクラスメイトたちと談笑していた。
扉からひょっこり顔を出したルイスに気づいてくれ、手招きをしてくれる。
「ほう久しいの。こっちへ来い」
「久しぶり」
クラスメイトたちに挨拶をすると一瞬でみんなに取り囲まれた。ジンを助けた一件に尾ひれがつき、ルイスは特別枠で貴族棟に編入ことになっていたらしい。
「違うよ。ジン様の毒味役兼ただの護衛」
「それでもすごいじゃない! いいな〜貴族棟ってこっちとは全然違うんでしょ?」
クラスメイトたちが夢心地で貴族棟がどんな風に豪華なのか妄想話が始まった。外観は同じだが内装は宮殿のように豪華だと話すとみんな目を輝かせた。
「でも貴族だけずるいわよね」
「そうそう、私たちと同じ学生なのにこうも差別されるとね」
憧れの声から段々不満の声に変わる。
確かに身分は違うが同じ学生というのには変わらないのに扱いが天と地ほど違う。
そのことに不服に思っている人間は多い。
「元気そうじゃな」
「アドルフもね」
「来週には魔法具が届いて、水回りも直るそうじゃぞ」
「よかった。ということは私も戻った方がいいよね」
日中は貴族棟で過ごし、夜は一般寮で過ごしてもいいかもしれない。
学園に側付きや騎士団は入れないが寮は別 だ。夜の護衛は側付きであるクアンに任せればいいだろう。
「でもそれをジンが承諾してくれるかの」
「承諾もなにも、私は元々こっちの生徒なんだし」
「だ、そうじゃよ。ジン?」
振り返るとジンが扉の前に立っていた。いきなり現れたジンに声にならない悲鳴が響いている。
「ジン様! もう用事は済んだのですか?」
「帰るぞ」
そう言ってルイスの腕を取って歩きだしてしまった。後ろからクラスメイトたちの黄色い悲鳴が響いている。
「いかがされましたか?」
「……あいつの側がいいのか?」
「あいつ?」
一体なにを言っているのだろう。ずんずん進むジンについていくのがやっとでそれ以上なにも訊けなかった。
てっきり教室に行くのかと思っていたら、ジンの部屋に連れてこられた。
扉を閉めると静かになる。そこでようやく自分の心臓がバクバクと激しく脈打っているのが聞こえた。
足が長いうえに早歩きのジンについていくため ルイスはここまで全力疾走をしていたせいだ。
ジンが振り返った瞬間、強く抱き締められた。
拍動はどんどん酷くなっていき、皮膚を突き破ってしまいそうだ。
爽やかなミントのコロンの香りに頭がくらくらする。酷使した足は一人では立っていられず、ジンの裾を掴んで体重を支えた。
「ルイを誰にも渡したくない」
「ジン様?」
切羽詰まった声に首を傾げる。
顔を見ようにもがっちりホールドされてしまい、身動き一つできない。
けれどジンの身体は小刻みに震え、なにかに怯えているように弱弱しい。
初めてた会ったあの雪の日を思い出す。 小さい身体にたくさん傷をつけられ、誰にも慰めてもらえず、落ちる涙を拭うこともせずただ突っ立っていた少年。
胸の奥が締めつけられたように苦しい。またジンは泣いているのかもしれない。たった一人でなにかと戦っているのかもしれない。
ルイスは背中に腕を回し、精一杯の力でジンを引き寄せる。
「大丈夫です。あなたが大好きです」
心の底からジンのことが好きだ。
いままで何度も口にしてきた言葉の意味にようやく気づく。
十年間会えない間、毎日ジンのことを想った。街へ買い出しに行くアドルフにジンの近況を聞いて少しでもそばにいる実感を得ようとしていた。
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