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第26話

 魔法学園に行くまで何度も悩んだ。会えない時間が長いほど気持ちは後ろ向きになり、ジンに嫌われるのではないかと不安だったけど、会いたい気持ちが勝りここまできた。  また一緒に過ごすようになって気持ちが溢れてくる。  好きだからそばにいたい。  好きだから守りたい。  もうジンが一人で泣かないようにそばにいて支えてあげたい。  そばにいる と傷つける存在だとしても、離れる選択肢はない。 泉のようにジンへの想いが湧き上がってきてそれが原動力になる。  いまならなんでもできそうな気さえしてきた。  (でもそれを伝えられない)  命を狙われている可能性のあるジンにこれ以上危険な目に遭わせたくない。  ジャケットをぎゅっと握り締めてから離した。ジンも力を抜いてくれ至近距離で目が合う。  「悪い。急に」  「私も差し出がましい真似をして申し訳ありません」  「ルイに触れられると嬉しいよ」   歯の浮くようなセリフに耳が熱くなる。きっと顔は真っ赤になっているだろうが表情に出ないように顔に力をいれる。  「さっきクアンから訊いたんだが、先日俺を襲った生徒は影武者だったらしい」  「影武者って……本物の方は?」  「一般寮に閉じ込められていた。かなり衰弱しているが、命には別状はないと」  「よかった」  ほっと安堵をこぼすルイスに反し、ジンは浮かない顔だ。まだなにかあるのかもしれない。  じっと待っているとジンはゆっくりと口を開いた。  「だが拘束したとき影武者は深い眠りについてしまってなにも訊けないらしい」  「……眠ったってどういう」  血の気が引いた。まさか死んだということなのだろうか。  ルイスの顔色を見てジンは首を振った。  「生きてはいる。だがつねったりくすぐったりしても起きないらしい。死んだように眠っている」  絵本にあった眠り姫のように眠り続けているということなのだろうか。  男の正体も目的もわからないまま眠られてしまってはなにも調査が進まない。  入学したときからまとわりつく嫌な予兆がどんどん形を成してくる気配を感じる。  「たぶん、闇の魔力が関わっている」  「まさか」  頭を打ちつけられたような気分だ。闇の魔力は人の命を捧げて得られる。  竜の洗礼を受けない非人道的で悪質なやりかたのため禁止されている。  それに闇の魔力は人を意のままに操ったり、生涯眠らせておくことができると言われている。  子どものときおとぎ話として母親から聞いたことがあった。  「闇の魔力って本当にあるんです か?」    「ある。城の書庫にいくつか伝書が残っているんだ」  「そんな恐ろしいものがなぜいま出たんでしょう」  「わからない。だがなにかの前兆なのは間違いないな」  ジンの命を狙ういやもっと歴史が変わるような大きな出来事がこれから起きるのかもしれない。  「あの男には捕まると眠るよう呪いがかけられていたのだろう」  「なんて酷い」  人を道具のように扱い、都合が悪くなったら眠らせておくなんて。  それは 人間の尊厳を蔑ろにした行為だ。  闇の魔力に打ち勝つ方法はない。火、 水、土、風の四つの魔力を合わせても呪いを前にしては太刀打ちができないとされている。  まさに最恐にして最強。  闇の魔力は何百年も現れていないという話だったが、いままさに近くに存在しているという恐怖に身体が震えた。  いつ、誰が呪いをかけられてもおかしくない。またジンに危険が及ぶかもしれない。  (僕がこの身に変えても守るんだ)  なにもできない、魔力もないがジンを守りたい気持ちは人一倍ある。  ルイスは片膝をついた。  「この命にかえてもジン様をお守りします」  騎士でも側付きでもない平民のルイスがなにをやっても格好がつかないのは百も承知だ。 ただ心からジンを守るという気持ちを伝えるにはこうするしかなかった。  ジンが息を呑む音が聞こえた。  「ルイ」  顔をあげるとジンも膝をついた。ルビー色の瞳が陽光を吸い込んでいるようにキラキラと輝いている。  ジンの長い指がルイスの頬を撫でようとして、寸前のところで止まった。  虚空で固まった指は戸惑うように左右に揺れ、そして元の位置に戻った。  「ルイは……女性なんだ。そこましなくていい」  「いえ、守らせてください」  「気にしなくていい」  「そんなの気にするに決まってるじゃん!」  つい声を荒げてしまい口をつぐんだ。  「失礼しました。無礼な真似を」  「大丈夫だ。心配してくれてありがとう」   そう返してくれたジンの顔は浮かない。もしかして間違ったことを言ってしまっただろうか。  なにも答えられず、気まずいまま夜を迎えた。

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