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第28話

ジンはどうしても外せない用事ができたというので部屋に戻ることにした。  一人で貴族棟のなかを歩くのは緊張する。ただでさえここでは紺色のスカートは悪目立ちをする。  すれ違う人に嫌な目で見られ、こそこそと噂話をされた。  (聞き耳をたてないように)  なにも聞こえなければ大丈夫だと足を早めているとまるで耳の側で囁かれているような声が飛んできた。  「今度はあの子はジン様のお相手なのかしら」  「平民風情で図に乗ってるわ」  「次はどうする?」   クスクスと笑っている女のグループに目が止まる。たぶんルイスの教科書を切り刻んだのグループだろう。  (でも証拠がない)  ただ悪口を言われたというだけで訴えても平民のルイスの言葉など誰も信じてくれないだろう。  貴族棟の教師は絶対に貴族側の言うことしか聞かない。そうやって媚を売れば自分たちが甘い蜜を吸えるからだ。  でもここで泣き寝入りするのも悔しい。だてに街中の人から石を投げられ、 両親からも蔑まれても生き残ってきた自信がある。  (大丈夫。僕にはジンがいる)   服の上からペンダントを握ると気持ちが強くなる。ルイスはくるりと踵を返し、女たち の方へ向かった。  「御機嫌よう、サファイア様」  「ご、御機嫌よう」  「ジン様の名誉にかけて伝えておきますが、私はジン様の護衛としてこちらにお邪魔しております。どうぞ私が迷惑ならジン様に直接申してください」  失礼します、と頭を下げてその場を去った。背筋はピンと伸ばし、できるだけゆっくりと堂々と歩く。そうやって余裕を見せつけると相手は癪に障るのだ。  案の定サファイアは顔を真っ赤にさせてルイスを睨みつけている。  ばくばくと心臓が早鐘を打っている。まさか自分がこんな強気な態度に出られるなんて知らなかった。 角を曲がってサファイアたちの姿が見えなくなって膝をついた。  「はぁ~緊張した」  今頃になって足ががくがくと震えている。怖かった。でも自分だけならまだしもジンが貶されているのに黙っているわけにはいかない。  「強気な女だな」  顔をあげるとレナードがルイスを見下ろしていた。いまのを全部見られていたのだろうか。 顔が熱くなり俯くと頬を撫でられた。  「ジンのお気に入りだけのことはあるな」  「別にそういうのでは」  「私のところに来るか?」  「は?」  急な申し出に頭が真っ白になる。レナードの心意がわからずじっと瞳を見ていると鼻で笑われた。  「次の王になるのは私だ。私に媚を売って損はないぞ、娘」  もしかして莫迦にされているのだろうか。 レナードの高圧的な態度は好きではない。それに小さいころからジンを散々泣かせてきた張本人に靡くわけがないだろう。  「結構です」 手を振り払い、今度こそ毅然とした態度で部屋まで戻った。

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