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第30話

 貴族の教室では相変わらず陰口を言われる日々だが、教科書を切り刻んだりされることはなくなった。  やはり王族の圧力は強いのだと知った。  ジンは学園を休み外での公務に出かけている。出る直前まで嫌だとごねて いたが、どうにか慰めて見送ってきた。  (てかいつもの癖に貴族の教室に来ちゃったけどジンがいないなら来てもしょうがないよね)  でもいまさらBクラスに戻れるわけにもいかないし、宙ぶらりんのままだ。  それに悪口も酷くなっていき、耳障りでもある。  (ジンもいないしサボっちゃおう)  ルイスは授業が終わると同時に教室を飛び出した。でもだからといって行く宛があるわ けでもない。図書館や研究室、競技場など気になるところはあったが、授業をサボっているところをバレたら面倒だ。  (仕方がない。部屋に帰るか)   踵を返すとちょうど目の前からレナードが歩いてきた。目が合ったので一 応頭を下げる。  「こんにちは、レナード様」  「またおまえ一人か」  「ジン様はご公務で外に出ていらっしゃいます」  「なるほど。それで教室が居づらくてサボっているのだな」  鋭い。ズバリと言い当てられてしまっては反論の余地もない。  レナードは不躾な視線を向けて気持ち悪い笑みを浮かべている。   「おまえのことは調べさせてもらった」  どきりと心臓が跳ねる。  「一般生徒のアドルフと小屋で暮らしていたらしいな。住所は街外れになっているが、調べたら人が住んだ形跡もない古びた小屋しかなかった」   書類を目の前で掲げられて凝視するとルイだけでなく、アドルフのことも事細かに記されていた。  何月何日に街に来て、何を買ってとアドルフが街へ行ったときの痕跡が事細かに書かれている。  「元々アドルフは祖父が死んで一人暮らしをしていたらしいな。で、六年前になったら食料が二人分に増えて街の人が尋ねたらしい」  じりじりとにじり寄ってくるレナードから逃げていると壁際に追い詰められてしまった。  「そしたら一緒に暮らす友人ができたと言っていた、と。そして六年前、この国になにが起こったか知らないはずはないだろ?」  六年前、ルイスが洗礼を受けた日のことが蘇る。  水晶は光らず沈黙を保ち、忌み子だと罵られて街中から石を投げられた。 身体が小刻みに震えだす。身体中に石をぶつけられたときの痛みが蘇ってきて、立っていられなくなりその場に蹲った。  痛い。なんで。僕が。どうして。  誰もルイスの質問には答えてくれない。親の仇のような怖い顔をして石を投げてきた。  ルイスの世界はそこで逆転したのだ。  身を護るように肩を抱いているとレナードの上質な革靴が見えた。  顔を上 げると汚いものを見てしまったかのように顔を歪ませて、ルイスを見下ろしている。  「やはり、おまえルイス・カーティだな」

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