33 / 47

第33話

 慌ただしい声と人の気配に意識が浮上する。なんだろう。なにかあったのだろうか。  「ルイス! 死なないでくれ、ルイス!」  何度も名前を呼ばれ、薄っすらと瞼を開けた。赤い色の実? いや、違う。ルビーのような瞳だ。  この瞳を持っているのは一人しか知らない。  (ジン、どうしたの?)  また母親やレナードに辛く当たられたのだろうか。  慰めてあげたいのに喉がカラカラで乾いた空気だけが漏れる。手を伸ばして頬に触れると熱く、重ねられたジンの手は大きく逞しい。  いつの間にこんなに大きくなったのだろう。  「竜よ、ルイスを連れて行かないでくれ」  震える声で竜神に懇願している。どうしてそこで自分の名前を呼ばれるのだろう。うつらうつらしていると視界のはしにアドルフの姿があった。  ベッドに寝かせられているとこのときになってようやく気づいた。  「薬が効いておる。まだ意識は混濁しているようだが、じきにちゃんと目を覚ます」  「じきにっていつだ?」  「明日か明後日くらいかの」  「そんな」  「大丈夫じゃ。少量しか口にしておらん。すぐに吐き出したようだし命に別状はないぞ」  「だが」  アドルフがジンを窘めても納得できていないようだった。  また意識が沈む。  重たくて抗えない。   瞼を閉じると唇に温かいものが触れた気がした。

ともだちにシェアしよう!