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第41話

 風が止み、目を開けると住み慣れた小屋の前に立っていた。歩いて三時間はかかる小屋まで一瞬だった。  その事実にまたも驚かされる。  「驚いているようじゃな、ルイス」  「アドルフ……」  やさしい眼差しはいつもそばで見守ってくれていたままなのに薄っぺらさを感じてしまう。  六年という決して短くない時間を過ごしてアドルフのことをわかったつもりでいた。だがルイスが見ていた面は彼のほんの一部だったのかもしれない。  「紅茶でも淹れよう。ゆっくり説明しようか」  「うん」  温かい紅茶を淹れてもらい、ほっと溜息をこぼした。アドルフが淹れてくれる紅茶はルイスの心を落ち着かせてくれる。  「さて、どこから説明しようかの」  「最初から全部」  「長い長い話になるぞ」  「全部知りたいんだ」  「あい、わかった」  そう言うとアドルフは訥々と語り始めた。  「我はこの国の守護神、竜であるとは言ったな。もうかれこれ二千年以上護ってきた」  ときには快活な青年、ときには妙齢の貴婦人、ときには高齢の村長など時代が流れるたびに容姿や名前を変えて、人間の生活を見守ってきた。  あるとき、人間がとても弱いこと気づいた。病にかかればすぐに死ぬし、天候次第で作物が育たなくなると飢えて死ぬ。だから暮らしやすいように自分と同じ魔法の力を与えることにした。  だがいくら神といえども、国民全員に魔力を与え続けるのは難しい。そこで竜の力の根源である竜脈に人々が祈りを捧げる場所を作り祈ると不思議な力が得られると噂を流した、。  信仰心は竜にとって食事と同じくらい必要不可欠だ。人々の厚い祈りの力を受け、竜は魔法を与え、その魔法の力で人間は生活を豊かにし、竜に感謝する。そうやって円のようにお互いを支えあっていた。  そして国のなかで特に他者を思い遣り慈しみのある心の持ち主を国の代表をして選定し、国の安定させてきた。  だが時が経つにつれ、人々は竜への信仰が薄らいでいった。安定した生活に慣れきってしまったのだ。次第に竜脈は魔力を吸われる危険な場所とされ、祈る人口も減る。そのせいで力が弱まり、人間の姿を保つことが難しくなりしばらくとかげの姿でいた。  湖を泳いでいるときに長い尻尾が岩に引っかかり、取れなくなった。力も弱くなっていき、為すすべもなくいると偶然溺れた子どもが助けてくれた。  「それがルイスじゃよ。覚えているか?」  「あの白いとかげがアドルフ?」  子どものとき、ジンとこの湖に涼みに来た。そのときに足を滑らせて水面に顔を突っ込んだときに溺れていたとかげを助けたことがあった。  「そうじゃ。それからルイスには魔力を与えず、ここに来るように仕向けた」  「どうして、そんな」  「光の魔力持ちになって我を消滅させて欲しかった」

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