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3.事故
学園祭の準備に騒がしい学内で、突然崩れてきた鉄骨の足場。
それは学生の組んだ造りの甘い物だったから、いつか倒れると思っていたと語っている人達もいた。
真横で崩れる鉄のポールを僕は身動きすることも出来ずに、ただその場に立ち尽くし、まるで他人事のように見つめていた。
唐突に訪れた痛み。
世界に音が戻り、ざわつきが辺りを包み込む。
顔を上げると、視線の先にうつ伏せに倒れる人の姿が見えた。
「っ!?───柊くん!!」
どうして柊くんが!?
どうして僕はこんなところに…!?
鉄骨に潰されたのは確かに僕の筈だったのに、そこで倒れているのは柊くんで、僕が倒れていたのは少し離れた地面の上。
「柊くん!!」
頭がクラリと揺れたけれど、そんな事は構っていられずに、彼の元へと走った。
「待って、君!揺らしたらっ」
「揺らさないよっ!」
柊くんに伸ばした手を、誰かが掴んで止めてくる。
頭を打ったかもしれない。だから揺らしちゃいけないって、そう言うことでしょ!?
「柊くん…っ」
辺りがざわついてる。
きっと柊くんは僕を庇って、僕を遠くへ突き飛ばして、…それで、自分が鉄骨に……
「柊くぅん…っ」
柊くんの手を握るけれど、いつもみたいに握り返してはくれない。
涙が目に溜まって…、だけどそれを拭う為に柊くんから手を離したくはなくて、涙を吹き飛ばすために首をプルプル振り回す。
と、
「だから揺らさないで!」
頭をガッチリ押さえこまれた。
「何ですか!?僕のことより柊くんを…」
「君も頭打ってるから、動かないで!」
え……?
はじめて、その人の姿を見る。
確か、事務室の人だ。
「今、担架を持ってきてもらってるから」
僕の頭を押さえていた手のひらを、ほら、と見せてくれる。
そこには、決して量は多くはないけれど、真っ赤な血液が鮮やかに……
べっとりと赤い液体が、手のひら一面を染めていた。
僕達は医務室に運ばれた後、病院へと移動した。
意識の戻らない柊くんは救急車で、僕は事務員さん――綾崎さん――の車で。
頭を打ったために精密検査を受けさせられて、取り敢えずは問題無しと結果の出た頃、柊くんの検査も済んだと綾崎さんが教えに来てくれた。
病室へ走って向かおうとしたら看護師さんに怒られて、急く気持ちを抑え込んで歩かなくてはいけなくて……。
「しゅ───っ」
大声で呼びかけたけどそれも堪えて、ノックをしてから病室へ入った。
「平井さん、検査は終わりましたか?」
「っ、終わりました。何の問題も無かったです。それより柊くん…秦野くんは!?」
柊くんも検査の結果、問題は発見されなかったとお看護師さんが教えてくれる。
「よかった…、柊くん……」
僕の頭には大袈裟なくらいにグルグルと包帯が巻かれてしまっているけれど、柊くんに外傷はなかったようで目立った治療の後もない。
「柊くん、大丈夫?どこも痛くない?」
ベッドサイドに寄って、上半身だけ起こした柊くんの手を握る。
「覚えてる?柊くん、僕のことを庇ってくれたんだよ。お陰で僕、全然なんともなかったんだよ」
「あ…の、さ…」
「あ、これはちょっと、…ちょっとだけ、血が出ちゃったから。でもね、ほんとに全然ヘーキ」
「いや、違くて」
「あっ、午後の授業?今日はもう…ムリじゃないかな。明日も休んだ方がいいかもね」
「じゃなくてさ、誰?」
「え…?あっ、事務室の綾崎さんだよ。僕達のこと助けてくれて…」
「いや、お前…さ、誰?俺のこと知ってるってことは、大学の奴?」
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