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4.観客
そこからはまるで、僕は舞台を見ている観客のようで……
柊くんは地方から出て来たからこっちに家族はいない。
だから病院に来たのは僕の家族だけ。
母親と、高校生の妹の2人。
柊くんはうちにもちょくちょく遊びに来てた。
一人暮らしじゃ大変だろうってお母さんが夕飯を振舞っていたから、2人も彼をよく知っている。
と言っても、柊くん自体はうちの家族のことも忘れていたのだけど。
そのうち妹が、柊くんは自分と付き合っているのだと言い出した。
忘れちゃったの?仕方ないな、って。
寝耳に水って言うのかな。
柊くんは、僕と付き合っている陰で妹とも付き合っていたんだ。
二股?それとも、僕とは遊びだった?
もしかしたら、僕が勝手に付き合っていると勘違いしていたのかもしれない。
兎に角、一時的な記憶喪失かも知れないってことで様子を見る為に一晩入院。
僕は気持ち悪くなったり何事もなければもう大丈夫だからと言われ、母親の車で家へ帰った。
翌日、柊くんは退院した。
自分の名前、生年月日、家族や大学や友達のこと、訊かれたことには総て正しく答えられたのだという。
忘れていたのは、僕に関する記憶だけ。
部分健忘───僕との想い出だけが、記憶の中から切り取られていた。
妹とのことを覚えていないのもきっと、僕が原因なんだろう。
……もしかしたら、本当は覚えているのかもしれない。
僕との──男同士の関係に嫌気が差して、良い機会だから忘れたふりをしようって思っているのかもしれない。
そうでなくとも都合良く僕のことだけ忘れるってことは、頭のどこかで無かったことにしたいって思っていた。そういうことなんだろう。
迎えに行く人もいないんじゃ、と、母さんと妹はまた2人で病院へ出かけて行った。
夜は夕飯を食べて泊まって行くよう誘うんだそうだ。
一人暮らしで何か有ったら大変だろうって。
友達なんだから貴方も迎えに行くのよ、と言われたけれど、頭が痛いからと言って断った。
妹が、家でゆっくり休んでればと言ってくれたから、2人を玄関で見送った。
包帯を取ってシャワーを浴びて、テーブルの上に書き置きを残して。家を出たのが午後4時過ぎ。
駅前のファミレスで、ドリンクバーで時間を潰して、晩御飯を食べて、京浜東北線に乗った。
そして、ローズに着いたのが6時半頃。
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