5 / 93
5.ごめんね
「だからね、もう二人で来ることはないんだ。僕はきっと彼の未来に必要の無い…ううん、邪魔な存在だったんだと思う」
多分僕は、ちゃんと笑えていると思う。
ショックを受けているようだとか、絶望に打ちひしがれているだとか、そんな風には見えない筈。
だけど目の前の皐月くんは目を大きく見開いて、その瞳を溢れる涙で光らせるんだ。
「えへへ、ごめんね」
「っ…んでっ、謝んだよぉっ…」
僕の代わりにしゃくりあげて泣いてくれる皐月くん。
優しい君を、泣かせちゃってごめんね。
「だって…っ、だってっ、ヘンっ…!」
何か伝えようと嗚咽を漏らす皐月くんに、神妙な面持ちでマスターがティッシュを渡す。
マスターにも、聞かれちゃった。
「ここっ、いるとき…っ、しあわせそうだった!」
「でも、彼はノンケだから。僕のことが、重荷になったのかも」
「俺だって…っ、ノンケだもっ」
そう、皐月くんはノンケ──男の人に興味の無い、元は女の子が好きな人だったらしい。
今は、男性でも女性でもなく、彼のパートナーであるローズのオーナーの事だけが恋愛対象なんだって言うのが、皐月くんの言葉。
僕は昔から女の子には興味が無くて、男の子ばかりを好きになっていたから…。
ずっと、好きだなんて伝えられなくて、……でももし僕がストレートでも、女の子を好きになったとしても、やっぱり気持ちを伝えることは出来なかったかなって思う。
だって、僕なんかに好かれてるって知っても、嬉しくないでしょ?気持ち悪いなって、きっとそう思う。
ともだちにシェアしよう!