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8.ナイトアフロディーテ
柊くんと付き合う事になったのは、二十歳の僕の誕生日。
4月生まれの柊くんに、初めて連れて行ってもらったお酒を飲むお店───それがこの店、ローズだった。
本当に付き合っていたのかは今となっては定かではないけれど。
告白の場にローズを選んでくれたのは、柊くんだった。
行き先がバーだと聞いて緊張していた僕は、エレベーターを降りたすぐの所でも、勿論扉の前でも、注意書きには気付かずに、ただ第一印象。やっぱりこういうお店には、オシャレな男のお客さんが多いんだなって感じた。
見惚れるほど綺麗なバーテンさんに、柊くんは少し緊張した面持ちで、
「あの…、アレを、この子に貰えますか?」
と伝えた。
「それと、俺にはジントニックを」
アレで通じるなんて、よく来るお店なんだろうか?
それにしては辿々しいけれど。
だけど、ゴクリと唾を飲み込むその仕草に、ああ…もしかしたらこの綺麗な人相手に緊張してるのかも、と思い当たる。
バーテンさんは声も見た目も男の人…だと思うけれど、薄暗い照明の中、自ら輝きを放ってるんじゃって勘繰ってしまうほどに神々しい。
ストレートの男の人だって、無意識に目を奪われてしまいそうだ。
そのバーテンさんが僕を見て、心配そうに首を傾げた。
「失礼ですが、お年を伺っても?」
「あ、こいつ今日二十歳の誕生日なんです」
僕が口を開くより前に、柊くんが答えてくれた。
確かに、僕は歳よりも幼く見えるからそれを訊かれるのは仕方がない。
「そうなんですか!おめでとうございます。宜しかったら一杯サービスさせてくださいね」
失礼しました、気分を害されたら申し訳ありません、とバーテンさんは謝ってくれたけれど、そもそも僕は未だに高校生にも見える容姿をしている。
それに、未成年にはお酒を出さないちゃんとしたお店なんだって分かって、僕は逆にそのバーテンさんに好感を持った。
「今日成人された方に伺うのもどうかと思いますが、お酒はお強い方ですか?」
綺麗なカクテルを出しながら、バーテンさんが訊いてくる。
カクテルグラスって言うのかな?三角のグラスの、下部分はピンク色。上半分は深いブルーで、キラキラとラメが輝きながら舞っている。
「あの、今日始めて飲むので、わからないんですけど…」
「それでは、少し度数が高いカクテルですので、ゆっくり飲んでくださいね。ナイトアフロディーテです」
「ナイト…アフロディーテ…」
夜の女神様…?
「星の舞い落ちる夜空の下、出逢った2人に愛が芽生える。
今宵お二人の元にも、愛の女神の祝福が訪れますように」
それ以上ここに留まるのは不粋だとでも言うように、バーテンさんは柊くんの前にもジントニック?を置くと、僕に向かってにっこり笑いかけてから、
「では、ごゆっくり」
柊くんにも声を掛けて、別のお客さんのところへ歩いて行ってしまう。
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