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9.ヘン
僕の頭の中は、今パニックだ。
だって、僕達の間に愛が芽生えるわけが無いじゃないか。
ううん、芽生えて…はいるんだけど、それは僕からの一方通行な想いだけで、矢印が逆向きに、……向かい合わせになることはない。
僕は、…ゲイだけど、柊くんはストレート。女の人を好きな人種だ。
知り合ってから3人も彼女が変わったし、彼女が居ない時期だって、何人もの女の子たちと遊んでた。
巨乳が好きで、夏場は薄着の女の子の胸に釘付けだ。
これ良かったから、って女子大生モノのそういうブルーレイを渡されたことだってある。
感想を訊かれて答えられなかったら駄目だと思って、必死な思いで見たのは、ちょっと嫌な思い出だけど。
だから、柊くんは女の子が好きで、僕のことはたまに構ってやってる友達としか思っていない筈。
それに、このカクテルだって、…ナイトアフロディーテ?
愛の女神の祝福なんて、男同士には与えられないでしょう?
そんなもの、いくら仕事だからって、男同士になんて……。バーテンさんも本気で思って出したんじゃない筈だ。
「ヘン…なの…」
口を付いた呟きを隠すように、カクテルを一口飲み込んだ。
甘くて美味しい。
けど、喉と胃が熱くなる。
これが、アルコールの味なのかな?
「忍、…美味い?」
ライムの乗ったサイダーみたいなお酒を一口煽った柊くんが、遠慮しがちに覗き込んでくる。
いつもグイグイ来る人なのに、ヘンなの。
そうじゃなきゃ、僕の性格じゃあ人と仲良くなるなんて出来る訳がない。
柊くんが飽きずに話しかけてくれたから、こんなにも仲良くなれたってのに。
「うん。甘くて美味しいよ」
「…そっか。よかった。…うん」
やっぱり、今日の柊くんはヘンだ。
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