10 / 93
10.相談
「…あっ……」
「忍?どうした?」
「…なんでもない」
カクテルのピンクの部分が口に入り込んで、急に甘くなくなったからビックリしただけ。
ピンクなのに甘くないんだ、とかちょっと考えたけど…
隠す必要もないことなのに、今日の柊くんはどこかいつもと違うから、なんだか話し辛い。
飲みに誘ってくれたのは柊くんの方だし、昼間もスイーツ食べ放題を「お祝い」ってご馳走してくれた。
だから、僕と一緒に居たくなくて様子がおかしい訳じゃないんだと思う。
でも、そうしたら……
バレないようにチラリと見上げる。
柊くんは、グラスに差してあったライムを手に、中をグルグルとかき混ぜていた。
目は忙しなくキョロキョロして、時折動きを止めては小さくため息をつく。
それから僕を見て、目が合えば逸らして、また息を吐き出す。
何か相談したいことでもあるんだろうか?
人の友達のことを悪く言う訳じゃないけど、柊くんの他の友達って、他人の悩みを真剣に聞くってイメージの人たちじゃ無いもんね。
なら、ヘンでも、いつもと違っておかしくても、大好きな柊くんの悩みごと、僕が聞く他無いじゃないか。
それが、こんな風にキョドっちゃうような、恋の悩みだとしても。
……きっと、そういう事なんだろうと思う。
でも、相手が普通の女の子の時はこんな風にはならない。
付き合いは長いわけじゃないけど、少なくとも出会ってからの柊くんは、女の子相手に心乱されて動揺する人じゃなかったから。
だから相手はきっと、友達の彼女だとか、大学の職員?
……もしかして、そこの綺麗なバーテンさんかも。
ああ、そうか…。だから僕のこと、ここに連れてきたんだ、きっと。
あの人のことが好きだから、協力してくれない?ってこと…?
「…うー……」
僕が柊くんのことを好きだからって、柊くんが僕のことを好きになってくれる……そんなこと、ある筈がない事はわかっていたけれど……
やっぱり、恋が終わってしまう時は心が痛い。
痛くて、悲しくて、涙が溢れる。
いつも言えずに終わってしまう、僕の恋。
今回も、結局僕の中で燻っただけで、無かったことにされてしまうんだ。
ともだちにシェアしよう!