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15.信頼

1人置いてけぼりの長原さんに、事のあらましを簡単に話す。 そして、柊くんが家に泊まるから帰りたくないのだと告げれば、いつもは見せない真面目な顔をして、 「じゃあ今夜は、俺と一緒に居る?」 そう言って、首を傾げた。 「長原さん」 たしなめるようなマスターの声に彼は、首を横に振って答える。 「こんなになってる子に、何もする筈がないでしょう」 「本当でしょうね?」 「俺、本命には真面目ですよ。本人が良いって言っても、本気で好きになってくれるまでは何もしない。マスターに誓って」 「……わかりました。それなら、お任せします」 渋々と言った様子で頷くマスターは、まるで僕の保護者のようだ。 本物の保護者よりも過保護みたい。 「取り敢えず閉店までここに居させてもらって、漫喫にでも行こうか。ホテルじゃ緊張するでしょう?あそこならシャワーもあるし、カップルルームに入ればソファーで寝ても危なくない。もっ、勿論俺は床で寝ますよっ!」 マスターのキッと突き刺さる視線が気になったのか、慌てて注釈を入れる長原さん。 そんなにマスターが怖いのかな?あんなに綺麗で優しい人なのに。 「一緒のソファーで大丈夫ですよ。何もしないんでしょう?」 笑いながら訊くと、長原さんは少し困ったように腕を組んでうーん、と唸る。 「やっぱりバラバラに個室で取る?」 「だったら僕、1人で漫喫行きます。巻き込んじゃって、申し訳ないし」 本当は、1人でいたら色々考えて泣いちゃいそうで辛いから傍にいて欲しいけど……。 こんな僕相手にでも、手を出しちゃいそうで堪えるのが辛いって人に、我慢して一緒に居なさいって言うのは、少し可哀想な気がする。 付き合ってもいないのに手を出しちゃう性癖です、ってとこには、賛同できないけど。 「……うん、分かった。俺、マスクをして手を縛っておくよ」 「え?」 「擦り付けないよう、キャッチャーがしてるファウルカップも着けよう。それから、視姦しないようアイマスクも買ってこないと。どこで売ってるかな?ドンキか…?」 「………ふふっ」 真面目な顔しておかしな事を言い出す長原さんが面白い。 こんなに色々考えて、手を出さないように…なんて頑張ってる人、……頑張ってるって!ふふっ。 「忍ちゃん…?」 吹き出す僕を不思議そうに見つめるその顔には、悪意の一つだって見止められないじゃないか。 「そこまでしなくて大丈夫ですよ。僕、長原さんのこと、信頼してます」 「えっ!?でっ、でもね、男は頭と下半身が別の生き物だからっ!」 「分かってます。僕も男だから」 「いや!忍ちゃんはそんなこと言っちゃダメだって!」 「えー?そうなんですか?」 「そうなんです!」 タチだろうがネコだろうが、心は女性じゃないんだから根本は同じだと思うんだけどな。 思ったことを伝えれば、それも「夢を見させて」と否定される。 友達と話していた時も落ち込んだままだった心。 それが今は何故だか、自然に笑えている気がする。 自分勝手なことを言うこの人になら、僕も自分勝手に甘えても良いのかな、なんて。 もしかしたらこのまま僕も柊くんを忘れることが出来るかもしれない。 僕を捨てた彼よりも、大切な人が出来るかも知れない。 それまで少しだけ、遊び人の貴方に甘えてもいいですか?

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