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16.団欒
結局──当然と言えば当然だけど──長原さんとは一晩何事もなく過ごし、翌日はお昼から夜7時までアルバイトしているレストランでお仕事。
上がりで従食を食べて帰れば、リビングでは3人が食後の団欒を楽しんでいた。
お母さんと、妹と、
お父さんは単身赴任で地方で一人暮らしだから、
もう一人は当たり前のように、柊くんだ。
すっかり妹の旦那ポジションに収まってるみたい。
「ただいま」
一応声を掛けてから2階へ上がる。
「忍、昨夜は何処に泊まったの?」
今までは外泊といえば柊くんの所だけだったから、気になるんだろうか。
「……恋人候補の人と、一緒にいた」
「恋人候補!?って、兄貴そんな人いたの!?」
「僕にだって、好きだって言ってくれる人くらいいるよ」
「うっそ!無い無い!見栄はんなくっていいって!」
うるさい、ビッチ!
心の中で悪態をついて、返事はせずに階段を上がった。
自分はお母さんがパートや飲み会でいない日を狙っては、男連れ込んでヤラシイことばっかりしてるくせに、兄の僕には誰もいないだろうなんて…、ハデなメイクしなきゃ恋人なんか出来ないとでも思ってるのか。
ハデな顔、ハデな服装、華美なメイク。
僕は父親似の地味な顔をしているから、外ですれ違っても兄妹だと気付く人はまず居ない。
……柊くん、僕を見てもおかえりも言ってくれなかった。
当たり前か。
だって彼は妹の彼氏で、僕のことなんか知らないんだから。
机の引き出しに暫く眠っていた、顔を覆い尽くすほどに大きな眼鏡を探しだす。
やっぱりこれが無いと、安心して生きていけない。
今までは柊くんの「眼鏡が無い方が可愛い」って言葉が支えになってた。
…けど、今はそれが無くなってしまったから。
眼鏡を掛けて1階に下りる。
お風呂にお湯は張っていたけれど、湯船に長々と浸かるのも疲れるから、今日もシャワーで済ませることにした。
頭を洗って、体に、顔も流して、10分も掛からずにお風呂から出た。
バスタオルで拭いて下着を着けたところで、脱衣所の扉がガチャリと開かれる。
ハッとそちらを振り返れば、そこには柊くんが立っていた。
「……あ、悪い」
「…いいえ。もう出たから、次どうぞ」
服を着るより先に、眼鏡を掛けた。
パジャマを素早く着けて、彼の脇をすり抜ける。
「ごゆっくり」
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