16 / 93

16.団欒

結局──当然と言えば当然だけど──長原さんとは一晩何事もなく過ごし、翌日はお昼から夜7時までアルバイトしているレストランでお仕事。 上がりで従食を食べて帰れば、リビングでは3人が食後の団欒を楽しんでいた。 お母さんと、妹と、 お父さんは単身赴任で地方で一人暮らしだから、 もう一人は当たり前のように、柊くんだ。 すっかり妹の旦那ポジションに収まってるみたい。 「ただいま」 一応声を掛けてから2階へ上がる。 「忍、昨夜は何処に泊まったの?」 今までは外泊といえば柊くんの所だけだったから、気になるんだろうか。 「……恋人候補の人と、一緒にいた」 「恋人候補!?って、兄貴そんな人いたの!?」 「僕にだって、好きだって言ってくれる人くらいいるよ」 「うっそ!無い無い!見栄はんなくっていいって!」 うるさい、ビッチ! 心の中で悪態をついて、返事はせずに階段を上がった。 自分はお母さんがパートや飲み会でいない日を狙っては、男連れ込んでヤラシイことばっかりしてるくせに、兄の僕には誰もいないだろうなんて…、ハデなメイクしなきゃ恋人なんか出来ないとでも思ってるのか。 ハデな顔、ハデな服装、華美なメイク。 僕は父親似の地味な顔をしているから、外ですれ違っても兄妹だと気付く人はまず居ない。 ……柊くん、僕を見てもおかえりも言ってくれなかった。 当たり前か。 だって彼は妹の彼氏で、僕のことなんか知らないんだから。 机の引き出しに暫く眠っていた、顔を覆い尽くすほどに大きな眼鏡を探しだす。 やっぱりこれが無いと、安心して生きていけない。 今までは柊くんの「眼鏡が無い方が可愛い」って言葉が支えになってた。 …けど、今はそれが無くなってしまったから。 眼鏡を掛けて1階に下りる。 お風呂にお湯は張っていたけれど、湯船に長々と浸かるのも疲れるから、今日もシャワーで済ませることにした。 頭を洗って、体に、顔も流して、10分も掛からずにお風呂から出た。 バスタオルで拭いて下着を着けたところで、脱衣所の扉がガチャリと開かれる。 ハッとそちらを振り返れば、そこには柊くんが立っていた。 「……あ、悪い」 「…いいえ。もう出たから、次どうぞ」 服を着るより先に、眼鏡を掛けた。 パジャマを素早く着けて、彼の脇をすり抜ける。 「ごゆっくり」

ともだちにシェアしよう!