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19.我侭
面白そうに見つめてくる瞳に、かぶりを振ってみせる。
「……恋人が、いたから」
「…ふぅん」
少し考えるような素振りはしたけれど、傷付いた顔なんて欠片も見せなかった。
ほら、この人は、僕に恋人がいるって聞いたところで気にしたりしない。
僕の大好きな柊くんなら、付き合う前にだって、
「忍にカノジョがいなくてよかったなぁ。だって俺が独り占めできるじゃん?」
そう言ってくれたのに。
「これ、どうやって使ってんの?」
はい、と2つを手渡される。
「……1人じゃ使わないから」
「ふぅん…。じゃ、俺が貰ってもいい?」
「……使い掛けだし、やだ。もう、捨てるから」
「捨てんなら頂戴。勿体無いだろ」
「いやだってば」
「忍ってさ、…いつもそんな我侭なの?」
はぁ…って、わざとらしく溜息を吐かれた。
……我侭なんかじゃない。
僕を忘れた柊くんには、僕なんて必要ないってことなんでしょう?
だったら僕にだって、そんな柊くんは必要ない。
それだけだ。
「んー…。忍、ちゅーしよっか」
唐突に体にのしかかられて、ベッドに背中から倒れ込んだ。
「えっ…、やっ、やだっ!」
「やだじゃなくて、忍としたいなぁ」
「明理とすればっ!?」
首元に顔を埋められて、ちゅう、と吸われる。
髪が鼻をくすぐって、脇腹をゆるりと撫でる指先に腰がゾクゾクした。
「明理じゃ勃たねーもん」
そう言いながら押し付けてくるモノは、徐々に硬さを増していく。
「やだっ、となりっ、明理のへやっ」
「ヘーキ。11時過ぎまで金曜○ードショー見るっつってたから」
「僕のこと…好きじゃないくせにっ」
「お前を好きな奴なら、誰にでもヤラせんの?」
「そんなこ…んっ…」
重なった唇、舌で口をこじ開けられて。
悲しいはずなのに、ダメなはずなのに…
大好きなその人の、この人しか知らないその感覚を……僕は易々と受け入れてしまうんだ。
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