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20.部分健忘【柊一Side】
俺はどうやら、部分健忘って種類の記憶喪失になったらしい。
訊かれた他のこと───子供の頃のこと、地元の事、大学のこと、友達のこと、住所に電話番号、生年月日に昨日の夕飯のメニュー。
なんだって答えられたのに、目の前で青褪めたそいつの事は思い出せなかった。
大学の事務の綾崎さんが言うには、その目の前の奴が崩れた鉄骨に巻き込まれそうになったとこを俺が助けて代わりに食らった…らしいんだけど、正直俺は身を挺して人を助けるような人間でもねえし、そもそも覚えてないんだからホントかどうか…。
そのうち、そいつ───平井忍の家族がやってきて、忍は帰っていった。
俺は大事を取って一晩入院。
忍の妹の明理ってのが、今の俺のカノジョらしい。
正直好みじゃねーんだけど、まあ胸はデケーし、顔は見られる範囲ならどうでもいいし。
向こうからタイミングよく告られたなら、付き合ってんのかもな。遊びのつもりを誤解されたって可能性も捨て切れねーけど。相手は高校生のガキだし。
顔だけで言ったら忍のがよっぽど可愛い。つか、むしろど真ん中。
けど、声も見た目も…まあ男だから、当然恋愛対象じゃない。
もしもアレで女だったら即手ぇ出してるなってだけで、俺には男をどうこうする趣味は無い。
乳ねーし、突っ込むトコもねーし。
女にしてもお堅そうだから、逆に俺の方が相手にされねーか。
女だったら貧乳だろうしな。挟めねぇ乳に興味は無い。
翌日、忍の家族が俺を迎えに来た。
忍は頭が痛むとかで、家で待ってるらしい。
なにかあった時1人じゃ不安だろうから泊まってけって誘われたから、有り難くそうさせてもらうことにした。飯の用意すんのもめんどくせぇと思ってたから丁度いい。
一旦家に寄ってもらって着替えなんかを用意してから平井家へ行くと、頭が痛くて休んでる筈の忍の姿は見当たらなかった。
テーブルに、出かけてくると書き置きがあった。
更に夜、外泊する旨メールが入ると、平井母・律子さんは忍を甚く心配をしているようだった。
「あの子、柊一君以外のお友達の家に泊まったことなんて無いのよ。誰と遊んでるのかしら」
俺はそんなに忍と仲が良かったのか。
「彼女でも出来たのかしら」
「まっさかー。兄貴に?無い無い!」
明理はその心配を笑い飛ばし、俺に「兄貴地味でブッサいもん。無いよねー!」と振ってきた。
忍がブサイク?それこそ無いだろ。
地味…は地味かもしんねーけど、あんな純粋そうで可愛い奴、もし女だったら俺が放っとかねーっつの。
ノーメイクであんだけ可愛いんだぞ。
お前こそ、JKのくせしてその厚塗り能面メイク、家帰ってきたんだからとっとと剥がせよな。
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