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22.ニセモノ【柊一Side】
忍が帰ってきたのは、翌日夜8時過ぎの事だった。
リビングの扉をあけて「ただいま」とだけ告げると、そのまま階段を上がっていこうとする。
まあ、挨拶もなしに部屋に篭もるよりは礼儀正しいのかな、とは思うけどさ。
まだ俺もここにいるってのに、無視はねえだろが。一言くらいなんかねーの?
「忍、昨夜は何処に泊まったの?」
やっぱりそこが気になってたようで、律子さんはちょっと大きな声で閉まる扉に呼び掛けた。
「…恋人…候補の人と一緒にいた」
開き直した隙間から、静かな声音が聞こえた。
「恋人候補!?って、兄貴そんな人いたの!?」
あからさまに驚いた明理に、忍は少しムッとした声で答える。
「僕にだって、好きだって言ってくれる人くらいいるよ」
「うっそ!無い無い!見栄はんなくっていいって!」
そのまま忍は2階へ上がってしまった。
「絶対居ないって。あのダサ兄貴に限って!」
ね?とまた俺に同意を求めてくる明理。
だから、テメーより忍のが可愛いっつーの!
「あんだけ可愛けりゃ目ぇ付ける奴もいんだろ」
投げ捨てるように言うと、明理は「はぁっ!?」と本気で驚いて目を丸くした。
そんなことより、だ。
綾崎さんが見間違えたんじゃなけりゃ、俺はアイツを庇って怪我したんだろ?
それなのに、なんでアイツは俺が泊まるつってんのに、家にもいないで、恋人候補?そんなんと遊びまわってんだよ。
こっちは、昨夜包帯巻いてた頭が痛ぇっつってたっつーから、ちっとは心配しながらここ来たってのに。
泊まりじゃヤることヤって来てんだろうしさ。
俺には大してイケてもねー妹押し付けといて?
どんな女と遊んできたのか知んねーけど、……段々腹立ってきたな。文句の一つも言ってやりてぇ。
「あ、そろそろ9時じゃん。アタシ、トイレ行ってくる」
別に断り入れなくていいのに、9時5分前、明理は「いってきまーす」とリビングを出て行った。
金曜ロー○ショー観るんだっけか。
俺は別に今日のヤツ興味ねぇし…。
「律子さん、先に風呂頂いていいですか?」
「ああ、良いわよ、勿論。いってらっしゃい」
帰ってきてからだとまた煩いだろうから、明理がトイレに行ってる間に客間に着替えを取りに行って風呂へ向かった。
脱衣所のドアを開けてはじめて、───中に忍がいたことに気が付いた。
「……あ、悪い」
「…いいえ。もう出たから、次どうぞ」
グレーのボクサー1枚。
ホントに俺と同じ男かって疑いたくなるほどに、白く滑らかな肌、細い腰。
胸を見れば、まあ…男ってのは理解できる。
どんな貧乳でも、やっぱり女の胸は男とは違うし、忍の乳首は男のもの。
で、ついでに、あんまり目立ちはしないけど、パンツの下から盛り上がるモノを見ても、これは男の体なんだってのはハッキリと判った。
……乳首と乳輪の色は、えれぇヤラシイけど。
忍は俺の存在に気づくと、パジャマを着るより先に、まるで顔を隠そうとしてるかのようにサイズの合ってないデッケー眼鏡を掛けた。
可愛い顔がほとんど見えなくなって、一気にモサくなる。
手早くパジャマを着こむと、
「ごゆっくり」
それだけ言って、風呂場を後にした。
残された俺は暫く閉じられたドアを見つめて……
……自分の意思とは別のところで、喉がゴクリと鳴った。
そこで漸くハッと気づく。
昨夜は女に舐められても反応の薄かったソコが、なんの刺激も受けないままに質量を増していた。
「……はっ、マジかよ…」
男の裸を見ただけで?
しかも下は下着で隠れてた。
半裸、っつーのも…アイツは女じゃねえし、あんなのプールや海行けば幾らでも見る光景だろ。
なに?俺ホモだったっけ?夏場、いつもどうなってた?
まさか修学旅行の風呂やらで、いつもおっ勃ててたワケ?
そんな憶えねぇけど、もしかしてそれも都合良く記憶を喪失してるだけなのか?
じゃあ、オンナ達と遊んでた日々───あっちの方が、ニセモノの記憶なのか?
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