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32.ツッキー【柊一Side】

ローズで告白した日、店の皆から拍手で祝福されて…… マスターが、お祝いにって、飲みもんを一杯ずつサービスしてくれた。 忍にはノンアルのブシーキャット、俺にはシャンパン・ブルースっつーブルーが鮮やかなオレンジ風味のカクテル。 金曜日だったから、忍を連れて家へ帰った。 このまま家に帰っても、泣き過ぎで目が腫れて、家族に心配掛けちまうだろ……ってのは、ただの詭弁だ。 俺が離れたくなかっただけ。 あわよくば…って下心が無かったと言えば嘘になる。 けど、その日は手出しできずに、一つのベッドで一晩を過ごした。 ………そうだ。 キスだけはさせるものの、それ以上は恥ずかしがってどうにもならなかった忍を胸に抱いたまま、悶々としながら一睡も出来ずに朝を待った日も、一度や二度じゃなかった。 体を弄ることが許されるまで1ヶ月、素股まで3週間、挿入まで更に2週間。 結局2ヶ月も、手出しせずに頑張った。 こんなのは初めてだ。 付き合ったことがあるのは、身体を使ってでも俺をモノにしたい、寧ろ体だけの付き合いの方が楽だって女ばかりだったから。 それでも、面倒だとは思わなかった。 いつか忍が同じように俺のことを欲しがったら…… そう思ってたクセに、堪え切れずに弄り倒しちまったけど。 忍も照れてただけで、俺にされる自体はイヤじゃなかったって言ってたから結果オーライ。 それどころか、一度繋がっちまえばエロい体で、俺のことを締め付けて離さなかった。 「広川さん、ありがとな。俺、帰るわ」 思い出した。 忍とのことを。 ここはやっぱり、俺達の縁結びスポットだった。 早く帰って、忍の家で忍を待ってよう。 そう思い立ち上がった俺の服の裾が何かに引っ張られた。 ふと目をやると、広川さん…んー、思い出したら畏まって呼ぶのも面倒くせぇな。 ツッキーだ、ツッキー。 広川皐月=さつき=ツッキー。 俺は初めの日からずっと、そう呼んでんだ。 記憶が飛んだからって、ツッキーの奴、俺にさん付けで呼ばせようとするたぁまったく図々しい男だ。 「んだよ、ツッキー?縋ってもアンタじゃ勃たねーぞ」 「俺がまずイヤだよ!」 「秦野くん、出禁にしますよ」 ちょっと冗談言っただけなのに、全力で返された。どころか、マスターにまで睨まれた。 マスターの「出禁にします」は冗談っぽく言ってるのにマジくさくて、いつもちょっと震える。 「……お前、思い出したんだな?」 「ん、…ここ来たお陰かな。ありがとな」 頭を撫でながら礼を言った。 手を払いのけられる、そんなやりとりを期待して。 けれどツッキーは、未だ真剣な瞳で俺を見つめていた。

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