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33.どこまで【柊一Side】

「どこまで?」 「え?」 答えを返さない俺に眉根を寄せると、ツッキーは声音をキツくした。 「どこまで思い出した?」 「どこまで、って…」 そんなん全部───全部だろ? 告白して付き合って、想いが通じて幸せな日々。 ここにも2週に一辺くらいは2人で通ってた。 安い店じゃないからあんま来られないけど、忍がこの店を気に入って、友達も出来て、青い水槽が好きでずっと張り付いてる忍が可愛かったし、なにより2人の大切な場所だから。 今まで周りに居なかったタイプの男。 男ってより、未だ男の子って印象の消えない忍。 忍が俺に慣れてくれるまで、徐々に徐々に距離を詰めた。 初めはスれてない可愛い奴だなって、珍しい物見たさで見かける度に声を掛けてた。 出逢いは入学式の桜の下。 遅咲きの桜の下でハデなヤツらが写真を撮ろうと集まったトコに巻き込まれた地味な奴。 知らない女に連れられて行った、その目の前でコケそうになってたとこを助けたのが初めだ。 2回目は確か廊下で。 また誰かに巻き込まれてすっ転んでるトコを助けた。 トロくせぇ奴だと、んなデッケぇ眼鏡して、一体どんな地味な顔してやがんだ、と外した先には、良い意味で期待を裏切る可愛い顔が隠れていた。 その場はすぐに別れたが、それから周囲の気配に気を配るようになり、忍を見つければつるんでるヤツらそっちのけで忍に駆け寄った。 初めはビビってた忍が、徐々に懐いてくる様は女とヤるよりよっぽど快感だった。 笑顔を見せるようになった忍の、素顔の笑みを見たいと思った。 『俺と居る時だけでいいからさ、その眼鏡外せよ』 渋る忍の眼鏡を取り去って、可愛いと頬を両手で挟み込めば、忍はその顔を真っ赤に染めて逸らせない瞳をうるうると潤ませた。 ドクン───と高鳴る鼓動。 初めての感覚に、胸が震えた。 ああ…マズいな… そう思った時には、もう遅かった。 俺の心はとっくに、捕らわれた後だった。 あの日、忍の瞳を覗いたあの時に、もう終わってた。……いや、始まってたんだ。 その様、マジでJ-POPかっつー話。 自分から告白するのは初めてだった。 けど、普段から眼鏡を掛けることをしなくなった忍の可愛さに気付く輩も現れる。 仲間内でも忍を可愛いと勝手に触る奴も増えてきた。……頭程度だけど。 誰かに目をつけられる前に、俺が忍を手に入れないと…! 決行は忍の誕生日がいい。 最高のシチュエーション、忍の好きそうなロケーションを探して、このバーに辿り着いた。 忍なら、このでっかい水槽を見れば喜んでくれそうだし、男同士の告白を不自然だと否定しない空間であれば有り難い。 否定どころか、実際には祝福と拍手まで貰ったしな。 それからは、大学でも毎日昼に待ち合わせて学食のカフェテラスに行った。 この時期外は寒いけど、忍には厚着をさせて、寒そうなら俺の上着も掛けて。 忍は俺のことが心配だったらしく、次からはコートの内側に重ねて着られるカーディガンをカバンに入れてた。

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