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35.代弁者【柊一Side】

「俺は立場が違うから、ちゃんとは分かってないかもしれない。…ううん、おんなじ立場だって、相手の気持ちを完璧に知ることなんて出来ないから、俺の考えは間違ってるのかもしれない」 それでも代弁させて欲しい、とツッキーは真剣な面持ちで俺の目を見つめた。 マスターが、空になったツッキーのグラスを新しいものと交換する。 薄くピンクの入った白色のドリンク。ツッキーの好きな桃のジュースだろう。 そしてマスターは、俺達の前で動きを止めた。 話に参加する気なのだろう。 「秦野…さ、忍くんのことを忘れた理由は、思い出したの?」 「忘れた…理由?」 訊かれた言葉を反芻する。 理由なんか…あるのか? ただ、良くは分かんねぇけど、一番近くにいた奴だからこそ忘れたとか、そういうことじゃねぇの? そう伝えると、ツッキーはまた、俺の言葉を否定した。 「秦野の中ではそれで終わる話かもしれないけどさ、忍くんは気にしてたから」 何を?と眉を顰めれば、ツッキーはグラスを口に寄せ、一口ゴクリとジュースを飲み込む。 喉仏がコクリと動く。 見た目しっかり男なのに、なんとなく艶っぽく感じんのは……、やっぱりこの人がネコ──抱かれてる側の人間だから、なのかな。 「忍くん、言ってたよ。自分はお払い箱にされたんだって。無かったことにしたくて、記憶から消してしまったんだろうって」 「はぁっ!? なんだよそれ!」 「なんだよはお前の方だよ!」 いきなり胸ぐらを掴まれた。 睨み上げてくる瞳からは、怒りよりも悲しみの色が強く滲んでいる。 「忍くんは多分、お前の事を思って身を引こうとしてる」 「っ……」 黙って聴けと目で訴えてくるから、吐き出そうとした言葉を飲み込んだ。 「忍くん、忘れられたことがすっごく悲しいって言ってたって。だけど、それだけじゃないと思う。 邪魔にされて忘れられたからもう嫌いになった。それだけなら、俺もこんな風に口出ししないよ」 ……親身になり過ぎだろうが、この人は。 ただ、この店でたまに会うだけの知り合いに近い友達相手に、そんな悲しみ半分受け持ったみたいな顔して…さ。 俺より忍のこと知ってるようなフリで。 ………真剣に聞かない訳にいかないだろ。 「忍くんは、お前のことを想って、身を引いたんだと思う。 自分のことは忘れたままの方が、幸せになれるんじゃないかって」 「はぁっ!?んな訳───つッ…!」 ─── 俺は……忍の幸せを奪おうと…… ───一時の気の迷いで…… まただ。また、ザザ…と砂嵐みたいな雑音混じりの記憶が断片的に蘇る。 ───忍にとって、俺は………

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