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37.忘れた理由【柊一Side】
『郁弥 から連絡行ってない?』
「兄貴?兄貴がどう…」
『あの子、駆け落ちしちゃったのよ!』
「は?え?奥さんは?」
『あの女も一緒よ!』
「あの女って…」
『有紗 よ、有紗!もう、だからあんな女…結婚も反対したのに。流産の事だって、郁弥に責任は無いから別れなさいって、……、……!』
流産……?
───有紗、流産ですって。子供ももう望めないって医者が言うから、ならうちの子と別れなさいって言ってやったわ。
───柊一、念の為貴方も戻ってきてこっちの子と結婚なさいよ。東京の女と一緒になって東京で暮らすなんて言われたら、堪ったもんじゃないわ。
───そうそう、貴方に見合い話があるの。
───早いに越したことないわよ。再来週の土日でも帰ってらっしゃい。お見合いセッティングしておくから。
───何言ってるの!東京の女となんてそっちに居る時だけになさい。恋だの愛だの、そんなのは一時の気の迷いなんですからね!
───貴方は男なんだから、子供が産まれたらうちの孫になるのよ。
───親に孫を抱かせるのが子供の義務でしょうが。大学にも行かせてあげた恩返し、ちゃんとなさいよ。
───男は跡取り作る義務があるの!立派な父親になって妻子を養うことが男の幸せなの。
男の幸せは、妻子を養うこと───?
───俺は……忍の幸せを奪おうとしていたのか……?
一時の気の迷いで、忍の未来を台無しにするところだったのか…?
忍にとって、俺は居ない方がいい存在なんじゃ……
『ッ───忍っ!危ねぇ!!』
ガラガラガラ───
「……はっ…、マジかよ、クソッ」
『柊一!貴方はまたそんな喋り方をして!』
………思い出した。
全部………これで、ほんとに全部だ。
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