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39.男の幸せ【柊一Side】
兄貴の嫁さんである有紗さんが流産してしまったのが、事故の一週間前のこと。
事故の前日、俺に連絡をしてきた母親は、それ見たことかと言わんばかりの勢いで、何故か放置しっぱなしだった俺の見合い話まで取り付けていた。
そして、トドメの言葉は───
恋だの愛だのは一時の気の迷い。
立派な父親になって妻子を養うことが男の幸せ。
………考え過ぎてた。
そんな妄言に振り回されて、俺は一番大事な奴を傷付けた。
もっと、シンプルに考えりゃあ良かったんだ。
愛だの恋だのは一時の気の迷い───?
なら、俺の一時は、どっちが先に死んでも終わらない、終わりのない一時 ──これから先、一生の時間なんだよ!
『柊一、良いわね。じゃあ金曜日に…』
「っせぇよ、ババア。勝手に男の幸せ語ってんじゃねっつーの」
言葉を遮ると、通話先から息を飲む音が小さく聞こえた。
「俺の幸せは俺が決める。好きな奴と添い遂げる。もう曲げねぇ」
「っ───~~~~っ!!!」
隣からツッキーにベシベシと叩かれた。
睨みを利かせた視線をやると、なんか口パクで伝えて、頭をガシガシ撫でてくる。
……え、ら、い…?
よく言った?
いや、そんなことより、男の力だから痛ぇ痛ぇ。
「う~~~、忍く~ん…よかったねぇ!」
…だから、なんでアンタが泣くんだよ。
笑いながら頭を撫で返してやった。
膝に伏せたスマホから、ギャンギャン喧しい声が響いてくる。
通話を切ろうとして、……スマホを逆さに、もう一度マイクを口元に当てた。
「俺の恋人、子供産めねぇから。孫が欲しいならテメェでもう1人産めよ。次の子供からは愛想尽かされねぇようにな」
言い切ってスッキリした俺は、一方的に通話を切った。
言い過ぎたかも知んねぇけど、後悔はしてねー。
忍を傷つけた罪は重罪だ。……俺を含め。
兄貴も、ずっと堪えてきた結果、いい加減我慢が効かなくなったんだろう。
けど、……ババア暫く荒れんだろうな。
親父にメールでも入れとくか。
ババッと用件だけ打ち込んで親父のガラケーに宛てて送った。
件名は、ごめん。
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