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44.フランクフルト

突然目の前にフランクフルトを突き付けられて、面食らう。 「ははっ、目ぇ寄ってっし。スッゲかわいー」 馬鹿にしてるその態度に、少しだけムッとした。 「いりません」 態度が悪いと思われても、もう知ったことか。 今度こそ頑なに断ってやる、と誓った心は、人の悪い笑みを浮かべた佐藤くんの行動により、簡単に打ち崩されてしまう。 「じゃあ俺が食べさせてあげる」 佐藤くんはそう言うなり、フランクフルトを僕の口に当てて、グイグイ押し付けてきた。 「うぅ~っ」 ブンブン首を振り回すと、嫌だという気持ちは伝わったのか、 「じゃあ自分で食べてね」 少しだけ口から離して、受け取るようにと促してくる。 言うことを聞かないときっと今度は押し込まれる。 仕方ないから受け取って、本当に仕方ないからそれを口に運んだ。 「あっ、待って。もっとあーん、って感じに口開けて」 これも断れば、もう1本…ううん、何本でも替えを持って来られそうだ。 「あーんっ」 わざと聞こえるように声を出してオーバーに、フランクフルトを咥えてやった。 大きな口開けると目を瞑っちゃう癖があるから、佐藤くんがどんな目で僕を観てるのかは見えない。 けど、どうせ「デケー口」とか「不細工な顔」って嘲笑ってるんでしょう? 「んまい?」 「……美味しいです」 こんな状況で食べて美味しいわけなんかないけど、そう答えれば佐藤くんは少し嬉しそうに笑った。 「良かった」 全然良くないけどね、この状況!! 「あのっ、それより、佐藤くんっ」 「んー?佐藤じゃなくてヒサトね。田沼(タヌマ) 寿人(ヒサト)。シュウが呼んでんの聞き間違えちゃったかな」 「っ…ごめんなさいっ」 「いいよ~。これから憶えてね。んじゃ俺、ちょっと電話してくるから食べながら待っててね~」 右手を上げると指をヒラヒラ、田沼くんは左手でキーホルダーを回しながら玄関から外に出ていった。 そして僕は一人部屋に取り残される。

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