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45.大変
夕方のこと。授業が終わって1人歩いていると、珍しいことに柊 くん以外の人から声を掛けられた。
「忍ちゃん!ついてきて!シュウが大変!!」
そう言ってバッと走りだす彼を、僕は迷いもせずに追いかけていた。
そして連れて来られたのが、大学近くの柊くんの住むマンション。
柊くんの部屋の下の階。
大体、柊くんのピンチなんて僕にはもう関係ないはずなのに……
どうして来ちゃったんだろう。
柊くんが大変って言ってた本人は、そんな事忘れちゃってるみたいに、電車の中でも関係ない話ばかりで。
パタンと音をさせて玄関ドアが閉まった。
「た~だいまっ」
明るくそう言うから、おかえりなさい、と返す。
田沼くんは一瞬面食らったような顔をして、暫く……破顔した。
「え、うっそ!忍ちゃん新妻感ハンパねー!かわい~」
……この人、目が変なのかな?
お世辞にしても、眼鏡を掛けたままの僕を可愛いって言う人なんて、今まで一人も居なかった。
柊くんですら、もっさいメガネって言って、会う度すぐに外された。
……けど、そんなことより…
「あの、…これ、ご馳走様でした」
「いえいえ」
美味しかったかと訊かれたから、頷いてみせる。
本当は、味なんて感じられる状態じゃないから美味しくなんてなかったけど。
ムリヤリ食べさせられた感はあるけど、頂いておいて味を否定することは出来なかった。
「お替わりは?」
「お替わり…より、…あのっ、帰りたい…です」
「ん?」
ちゃんと聞こえてるだろうに、首を傾げられる。
「あのっ」
「俺、シュウが大変、って言ったよね」
「え…、あ、…はい」
「問題は解決してないのに帰るってことは、シュウのことはもうどーでもいい、ってこと?」
折角勇気を出して立ち上がったのに、手首を掴まれ引っ張られてソファーに逆戻り。
「……柊くんは、…僕のこと、忘れちゃったから。……もう、……友達じゃないんです」
友達だったのは恋人になる前の話だけど、まさか柊くんの友達にそんな事を言える筈もない。
だけど……
「うんうん、友達じゃなくて付き合ってんでしょ?忘れられたから別れたの?」
「っ───?!」
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