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47.人形
それから暫く、田沼くんはそこから動こうとはしなかった。
声も出さないでそこに座って、時々身じろぎする。こちらを窺っている気配。
部屋の中には僕のすすり泣きだけが小さく聞こえていた。
何故こんな所でこんな事になっているのか、今となってはもう分からない。
悲しいと言うより、もうそこに心は無くて、ただ意味も無く涙を流し続ける人形のようだ…と、まるで他人事のようにそう思った。
……ああ、…きっと僕はもう、死んでしまったんだ。
そう考えればなんだかしっくりときた。
ただ残った体内の水分を放出させているだけで、泣いているわけじゃない。
隣に座る人は、僕の死体を目前に茫然としているだけ。
僕を好きだと言ってくれたあの人の中から僕が消えた───あの日にきっと、僕はもう……死んでしまっていたんだ。
───ピンポン
不意に、間の抜けた音が聞こえた。
ピンピンピンポン、ダンダンダン!
音の嵐が、耳を通り抜けていく。
田沼くんが立ち上がる。
「忍ちゃん、ちょっと待ってて」
僕に話しかける。
もう死んでしまった、人形の僕に。
ダンダンダンダン!
嵐は止 まない。
「はいはい、今開けるってば」
カチャリ
「ヒサトォーーー!!!」
「えっ、うそっ!?───イタッ!おまっ、蹴───」
バタンッ
ダダダダッ
「っ─────忍っ!!」
その瞬間、僕の体は苦しさと痛さとを一気に訴えた。
人形は、抜け殻ではなかったことを思い出したのだ。
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