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48.最後に出来ること
膝を抱えた僕の体を包んでいるのは、大好きな香りだった。
「ごめんな、忍。悲しかっただろ。全部、思い出したから。…全部」
大好きな声が、湿っていた。
強く、強く抱きしめられる。
大好きなぬくもりが、僕の肌に触れていた。
「ヒサトに襲われたんだろ!?最後までされなかったか!?ごめんなぁ」
頭に頬を摺り寄せられた。
ガンガンと痛む頭で、ぼんやりと考える。
全部…思い出した……?
ごめん………?
忘れた理由を思い出した。
僕は正式にいらなくなった。
だから、ごめん…ってこと……?
「……ふっ、ぅ……くっ……」
今まで意味無く流れ出るだけだった涙が、意識の中で溢れて落ちた。
「ぼくっ、もっ、いらな…っ、やだっ、…やだぁ……しんじゃうぅ……っ」
「忍っ!?そんなヒデぇことされたのか!?───くそっ、ヒサト殺す!!」
ビリビリとした空気を纏わせて怒っている様子の柊くんの、僕の背中を撫でる手は何故だかとても優しい。
頭に唇を寄せて、何度も何度もキスしてくれる。
要らない僕に、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう…?
そう言えば、柊くんは出逢った時からずっと、優しかった。
転びそうになった僕を二度も助けてくれた。
ひとりぼっちだった僕に声をかけてくれた。
友達になってくれた。
可愛いって言ってくれた。
好きだって告白して、恋人になってくれた。
しあわせを沢山くれた。
なのに僕は、彼に何も返せていない。
何もしてあげられなかった僕が、最後に出来ることなんて………
「……柊くん。…僕、もう大丈夫、だから…。
………今まで、本当にありがとう」
───笑顔で、すっきり別れてあげることだけじゃないか。
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