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52.モヤモヤムカムカ
柊くんと手を繋いだまま、田沼くんが起き上がるのを待った。
田沼くんは鍵を持っていないみたいで、閉まってしまったオートロックの扉を恨めし気に見つめている。
靴も履いてなくて、なんだか可哀想だ。
「柊くん…、田沼くん、柊くんが大変って言って僕のこと連れてきてくれたんだ。だから…」
きっと田沼くんは、僕が避けたことで柊くんが傷ついていたから、僕たちを会わせて仲直りさせようとしてくれてたんだ。
そう思ってそれを伝えれば、柊くんは田沼くんの方を向いて舌打ち。
…うぅん?なんで舌打ちなんだろう?
「おい、ヒサト」
チャリン、って金属のぶつかる音がした。
「おっ、と……カギぃ!?」
「感謝しろ。玄関のカギ入れから取ってきた」
「お前が持って帰ったら余計困んだろーが!」
「一晩反省したら返してやろうと思ってたんだよ」
田沼くんの手には玄関の鍵の付いたキーホルダー。
柊くん、オートロックが勝手に閉まっちゃっても開けられるように、鍵持って出てきてあげてたんだ。優しいな。
でもこの時期は寒いから、一晩外にいたら凍えて風邪ひいちゃいそうだ。
「忍に感謝しろよ」
柊くんが開いたエレベーターの扉に向かうから、慌てて脚を動かす。
「忍ちゃぁん、ありがとう!!」
両手を大きく振る田沼くんに会釈して、エレベーターに乗り込んだ。
「あれ、シューイチ!…と、忍ちゃん」
田沼くんとお別れして、やっと柊くんと2人きりになれる……と思ったのに、箱の中には見知った顔。
柊くんの友達の一人、チナツさんって女の人だ。
「2人でヒサトんち行ってきたの?いいなぁ、私も誘ってよ~。てかさ、シューイチ、忍ちゃんと仲直り出来たの?」
「っせーな。誘うとかそう言うんじゃねぇんだよ」
僕たち、ケンカしてたと思われてたのかな?
「あっ、じゃあ今からうち来る?忍ちゃん一緒でいいし!」
「っ……!」
チナツさんが柊くんの腕に腕を絡ませた。
肘に胸を押し当てて……
む~ん………
すごく、モヤッ、って…、胃がムカムカしてきた。
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