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56.僕だけ

僕のことを忘れた柊くんが、好きでもない僕のことをムリヤリ抱いた日。 今と同じ様にベッドに腰掛けて、僕以外にされたことを何でも無いことのように話して聞かせたんだ。 ───明理が舐めてきたんだけどさ 「ッ……ふっ、…くぅ……っ」 悲しみが、一気に押し寄せた。 正座をした裸の情けない姿、太ももの上に涙がボタボタと零れていく。 涙はもう止まったはずなのに…… あの時は僕のことなんて忘れていて、彼女だと思ってた人とそうなっただけ。 僕以外とシたからって、浮気って訳じゃない。 それに、忘れてた間にも最後までしたのは、僕だけなんでしょう? …………僕…だけ……? わかんない。 僕ともしたけど、他の日にしてないとも限らない。 あの日にだって、僕は夜まで居なかったんだから、他の人と会う時間は沢山あった。 柊くんは、僕に関わる記憶以外は忘れていなかったんだ。 さっき会ったあの人、チナツさんだって、柊くんのこと、本気で狙ってるのかもしれない。 邪魔な僕がいない間に、柊くんのことを奪ってやれって、カラダを使ったかも知れない。 柊くんは、巨乳が好きなノンケだから、気が乗れば簡単に彼女に手を出すだろう。 だって、僕と付き合う前は、恋人がいても他の人の誘いに乗ってたもん。 明理にも簡単に舐めさせた。 きっと、他の人にも……、簡単にさせちゃう。 ……そう言えば、僕にはなかなか手を出してくれなかったな…と思い当たる。 やっぱり、男相手に躊躇したのかな…。 今は慣れちゃったから男でも平気だけど、やっぱり女の人の方がいいよね。 柊くんは、ノンケだもん。 男のくせに泣き虫で、きっと鬱陶しい奴って思われてる。 せめて騒がしくないよう、声を殺して涙を流す。 嫌われたくないと思っても、きっとそのうち呆れられて捨てられちゃうんだろうけど…… でも、せめてそれまでが少しでも長引くよう、嗚咽はあげないようにと。

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