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58.化け物
お風呂から出た後も柊くんは、髪を拭いたり体を拭いたり、自分そっちのけで僕の面倒を見てくれる。
ドライヤーで頭を乾かして、
「ん、キレイ。かわい」
最後に頭をぽんぽんと撫でられた。
洗面台の鏡に映った僕の顔は、あの頃とさして変わらない、見る人を不快にさせる造りのままなのに……
ベッドで待ってるよう言われたから、一人部屋に戻ってベッドの端に腰掛けた。
この部屋には僕の着替えも置いてあるけど、パジャマだけはいつも柊くんのスウェットを借りる。それも、上だけ。
柊くんは、彼シャツってのが好きらしくて、身長差のある僕がスウェットシャツをワンピースみたいに着るのがエロくて可愛いって……
僕はその言葉を馬鹿正直に信じて喜んで、調子に乗っていたけど……。
それってやっぱり、女の人相手にした方が、エロくて可愛いんじゃないのかな……。
僕のこんな、柔らかくもない脚が見えたところで、ほんとに可愛いなんて思うのかな。
だって……、僕と付き合う前にはこの服も他の人…女の人に、着せてたんでしょう?
だから、僕にもさせようと思ったんでしょう?
………もしかして、僕と付き合ってからも?
「うぅー…」
シャツを脱ぎ捨ててベッドに転がる。
心が狭くて、独占欲の化物みたいな自分が醜くて……
どうしようもなく苦しい。
「…また泣いてたのか?」
ギシッとベッドのスプリングが沈んで、隣に柊くんが腰を下ろしたことに気づいた。
「そんなに泣いたら、干乾びちまうぞ」
本当にこのまま干乾びて、風にさらわれ消えてしまえれば、僕なんて無かったことにできるのに。
「飲めるか?」
冷たい何かがほっぺにピタッとあてられた。
いらないと首を横に振れば、うつ伏せていた身体を転がされて仰向けにされる。
肩の後ろに手を回されて、そっと優しく起き上がらされた。
おでこにコツンと、おでこが当たる。
「口移しなら飲める?」
首を横に振って否定する。
「俺のこと、赦 せない?」
首を横に振って。……でも、
…………そう…なのかな……?
僕を忘れた柊くんが許せなくて、意地を張ってるだけ?
少しだけ顔を上げて、彼を見つめた。
悲しげに僕を見つめる柊くんを。
柊くんが一瞬でも僕のことを好きじゃなくなったからって、自分でも気付かないままに、僕も好きじゃないってフリをしようとしてるのかな…?
………よく分からない。
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