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60.辛い
柊くんの背中に手を回す。
ぎゅっと力を込めてしがみつくと、苦しくない程度に抱き返してくれた。
こんなダメな僕のこと……
柊くんは、まだ好きでいてくれてるんだろうか……
「僕には、柊くんだけ」
囁き声で呟けば、それを聞き逃さずに、柊くんは「うん」と頷き抱きしめる腕に力を込めてくれる。
「…でも、柊くんには、僕だけじゃない、から……」
垂れそうになった鼻をズズッと啜る。
「それが…辛い」
「……ごめん」
ほら、謝った。
否定するでなく、謝ったってことは、これからも変えるつもりはないってことなんでしょう?
僕だけじゃない、けど、僕が…1番?
1番なら……1番じゃないかも知れないけど、ゲイの僕がノンケの柊くんに恋人だって言ってもらえるのは、それだけで奇跡みたいな幸せ、だから………でも……
「……辛いよぉっ」
ヒグッ…と、あげそうになった嗚咽を既で堪えて、流れる涙を見られないように手の甲でぐいと拭った。
「ごめん、忍」
頭を肩に抱き込んで、優しく撫でてくれる。
「っ…やだっ、…あやまらないでぇっ」
「…うん、……ごめん」
「そ、やって、っ…あやまればっ、ぼくのこと…、1番じゃ、なくてもっ」
「えっ…、な、なに!?」
「っ───僕1人じゃないくせにっ!いっぱい好きなくせに!」
ちゃんと話そうとしてるのに、柊くんは誤魔化そうとしてる。
そう気付いたら凄く悲しくて、凄く悔しくなって、溢れ出す涙も垂れ流したままに柊くんを睨み付けた。
「えっ…と、待って、忍…?俺、…どういう事になってんの?」
「っ……自分が一番分かってるくせに…!柊くんも、この服もっ、僕だけのものじゃないもんっ。僕はっ、柊くんだけのものなのにっ!」
脱ぎ捨てたままにしてた服を手にとって、柊くんに押し付ける。
柊くんはそれを黙って手に取ると、フーッ…と、大きく息を吐いた。
「ッ───!?」
反射的に目を逸らす。
…どうしよう。僕、調子に乗って、言わなくても良いことまで言っちゃったんだ。
柊くん、モテる人だもん。
リア充の人だもん。
リア充なんて、向こうから寄ってくるんだから、気が向けば相手をするのなんて当然、って人たちの集まりだ。
だって、僕と付き合う前別れ話が拗れた時に、そう言って元カノと口喧嘩してた。
僕と一緒にいた時に。
僕も当然それを聞いて、納得済みで付き合ってるんだろうって、きっとそう思ってるんだ。
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