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61.深い愛
「───忍」
名前を呼ぶ声に反射的に、怒られる!と首を竦めた。
だけど柊くんはもう一度弱々しい声で僕を呼ぶと、唐突に声を張り上げる。
「ごめん!!」
その言葉を不思議に思い、目を上げた先で、彼は本当にすまなそうに表情 を歪めていた。
意味が分からなくて、目が泳ぐ。
「誤解させるようなことした俺が悪い。けど、俺、お前を好きだって気づいてから、他の奴には手出ししてない。嘘だと思うなら周りの奴らに訊いて確認していいから。
その…、記憶失ってた時は、…アレにフェラされたけど、あれ一回きりだ。
断じて浮気はしてません!」
「…………え?」
急に強気な声を出すから面食らった。
「え、じゃなくて、俺にも忍だけなの!分かる?部屋に入れたことあんのも忍だけ。そもそも俺、テメェのスペースに他人入れんの嫌いなの!だから、服もベッドも、全部お前にしか触らせてねーの!」
分かった!? と訊ねられて表に出たのは、言葉ではなく、じと…と据わってしまった視線。
柊くんは眉尻を下げて息を吐き出すと、頭をガシガシと掻いた。
「分かったよ。今から忍のことをスッゲー甘々に抱くから、俺の深い愛を思い知りなさい」
「え…ふわっ…!?」
突然くるんと体が回転して、ベッドに背を押し付けられた。
顔が間近に迫ってくるから、キスをされるのだと瞼を下ろす。
……と、
フッと前髪を息で吹き上げられた。
ビックリして目を開ければ、すぐ傍に真剣な柊くんの瞳。
「忍が俺の気持ち認めて赦さない限り、俺からはキスしないからな。それから、忍が俺のちん○舐めんのも無し。俺にご褒美になっちゃうから。今日のご奉仕は俺からだけ。分かったな」
責めていたのは僕の筈なのに、…それも途中で引いてしまったけれど、何故か僕が試されている気がする。
許すとか許さないとか、僕の気持ちはきっとそういう事じゃなくて、ただ淋しくて、信じられなくて、……そう、不安なだけなのに。
だから、柊くんが沢山キスをして信じさせてくれれば、安心できると思う…のに……。
だけど、そんな僕の思いは伝わらなくて……
柊くんは、
「じゃあ、よろしくお願いします」
と言って、頭をペコリと下げた。
僕はとても不服だった筈なのに、……その様を見て、ついフフッと声を立てて笑ってしまったのだった。
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