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68.甘い【柊一Side】
瞼にキスをして、その目を閉じさせると手繰り寄せたボトルのフタをそっと開く。
目尻に唇を寄せながら、その隙に頬に掛かった精液にローションを落として。
「甘いよ。忍はさ、俺にいっぱい抱かれて女のコの身体になっちゃったんだね。だから、ココから出るミルクが甘いんだ」
「………女の子のって、甘いんだ…」
俺の喩えが気に入らなかったのか、忍は少しむくれて視線を逸らす。
ふっふっふっ、しかし今の俺は先程までの俺とは違う!
忍が返してくるリアクションも、想定済みなのだよ。
「知んねぇ。俺、オンナの股、舐めてやったこと無ぇし」
「えっ…?」
ほ~ら、食いついた。
確かに気を引くために吐いた言葉だけど、嘘偽りは一つも無いからな。
俺の真実をしかと聞きやがれ。
「だーかーら、俺がこんな風に自分から求めんの、お前が初めてだってーの。ついでに言っとくと、好きなヤツと付き合ったのも、忍が初めてな」
「えっ、…で、でも…っ」
「俺をこんなに夢中にさせるのは、お前だけだって言ってんの。分かんな?お前が最初で、最後なの!」
そう強めに言い切って、ペロリと頬のローションを精液ごと舐めとった。
「ん」
忍に向けて舌を差し出す。
動揺した目で見返されるから、もう一回。
「ん!」
忍は呆然としたまま、突き出した舌におずおずと舌を這わせた。
チロチロと舌の上部を舐められて、ゾクゾク熱が上がってく。
小さな口でぱくん、と咥えると、やんわりと舌を絡ませてくる。
上手いわけじゃない。
ヤる時はいつも俺が攻めるから、受け身のキスは上級者だ。
けど逆に、自分から仕掛けるキスは慣れてなくて、まるで清純な、処女みてぇな辿々しいキスに、戒めの為テメェでも触れてないモノは爆発寸前、我慢汁ダラダラ。
なんか、悪いコトしてるみてぇで滾るってーか。
絡む舌を滑らせて口を離すと、忍は恍惚の表情を浮かべていた。
「あまい…」
「な?だから言っただろ」
頭にポンと手を乗せて、言い聞かせるみたいに撫でてやる。
忍はこくりと頷いた。
「メイプルシロップみたいな味する…」
「恋人に散々可愛がられてるバリネコのミルクは甘くて美味い。これ常識な」
「そうなの?」
首を傾げる。
「嘘だと思うなら、ツッキーに会った時にでも聞いてみ」
まだ半信半疑な様子で頷く忍に、後でツッキーに頼んどかなきゃな、と考えながら苦笑する。
そもそもこの甘い味のローションを買ったのも、忍の為を思っての事だった。…って言うとヤケに偉そうだけどな。
けどマジで。
俺が出したのは美味くて忍のはマズいなんて、んな訳あるハズもねぇだろ。
他の男 のなんかぜってぇ臭いを嗅ぎたくすらねーけど、好きなヤツの───忍の出したもんなら、味はともかく気持ちで、美味い。って感じる。
今は騙して「ネコのミルクは甘くて美味しいんだ」と思わせることしか出来ねぇけど、いつかは俺のそう言う想いも伝われば良いと思う。
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