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79.宣言
「それで、それを踏まえて、柊一君。私に話って言うのは?」
お母さんはやけに楽しそうな顔をして、僕ではなく柊くんを見つめた。
「それ」ってなんだろう?お母さんと柊くんが付き合ってないってこと?僕たちが「おばかさん」だってこと?
柊くんは僕の肩から手を放すと、お母さんに向き直って、はぁ……と大きなため息を吐いた。
「気付いてたんですか」
「これでも母親ですからね」
「…うちの母親に爪の垢煎じて飲ましてぇ……」
何を話してるのか分からない。
2人だけで分かりあっててズルい。
お母さんと付き合ってないなら、柊くんは『僕だけの柊くん』な筈なのに。
「ほら忍、むくれないの。柊一君も、朝は忙しいんだから早くしてね」
お母さんに急かされると、柊くんは俯き額を押さえていた手を僕の肩へと移動させた。
そのまま力強く抱き寄せられて、面食らう。
「えっ、柊く…」
「忍を俺に下さい!幸せにします!!」
お願いします───とお母さんに向かって頭を下げる柊くん。
事態が飲み込めなくて……、取り敢えず一緒に頭を下げた。
「具体的には?」
「えっと、…いい会社に就職して、苦労させない生活と、浮気は絶対しないし、一緒にメシ作ったり、家事も分担で…」
「子供ねぇ、柊一君」
「えっ、いや!それから、その……忍と籍を入れたいんです。不安にさせたりとか、泣かせたりしたくないんで。知り合いもやってるんですけど、ゲイ婚っつって、意味合い的には男女の結婚と変わんないやつで」
「そんな事したら、簡単には別れられなくなるんじゃないの?」
「別れるつもりありませんから!!」
「忍はどうなの?」
柊くんに向かっていた視線が、僕の方へと動いた。
今、お母さんに顔を見られたくはなくて、柊くんの背後に隠れる。
……ゲイ婚って、…皐月くんやリュートさんがしてるやつだ。
香島さんと。夏木さんと。
「結婚してるんだよ」「俺の旦那様なんだ」って、皐月くんが嬉しそうに、お揃いの指輪を見せてくれた。
それを柊くんも、……僕なんかと、してくれるって言うの?
しかも、お母さんにまで宣言して、
僕のこと、幸せにしてくれるって………
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