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81.夢の世界

下げたままの頭の上で、お母さんがふぅー…と、ため息を吐く音が聞き取れた。 「本当に…ばかな子ね」 ばかな子───それは……男同士、幸せになれる保証なんて無いって言うのに、男しか好きになれない僕のこと? ノンケの柊くんを茨の道に巻き込んでしまったこと? それとも、隠し通せばいいのに、馬鹿正直に話してしまったことが…? 僕がバカだって言われる理由なんて、たくさん有り過ぎて一つに絞り切れない。 お母さんも、全部ひっくるめて僕のことを「ばか」って言っているのかもしれない。 「……ばかで…ごめんなさい…」 「もう…、ほんとばかなんだから。謝らなくていいの」 不意に、正面から───ふわりと抱きしめられた。 160cm、男としては背の低い僕よりもさらに10cmも低い位置からぎゅっと、背中に手を回される。 「お…母さん……?」 「何年…あんたのお母さんやってきてると思ってんの。あんたが柊一君を好きなことも、女の子を好きになれないことだって、お母さんは気付いてた」 「え……?」 お母さんの肩に当たっていた、顔を上げる。 気付いてた…って…言った……? お母さんは、僕が隠してたこと全部、知ってたってこと? 驚いてその顔を見つめると、ふっと目を細める。 「いつか本人が言い出すまでって思ってたけど、そんなに思い詰めてたならこっちから振ってあげればよかったね。隠してるみたいだったから、知らないフリをしてた方がいいのかなって思ってたんだけどね」 「……僕、…気持ちわるくない?」 当然、僕自身はそうである人を気持ち悪いとは思わない。 だけど、他の人たち──同類であるゲイの人たちだって、いざ僕がそうであると知れば、気持ち悪くない、おかしくは無いのだと認めてくれる人ばかりじゃないだろう。 だって、…僕、だもん。 ローズの人たちは、特殊なんだと思う。マスターのリュートさんがそうであるから、当たり前に誰でも受け入れてしまう、優しいお客さんたちが集まってるんだ。 お母さんはお父さんと結婚した普通の人だ。 普段は差別をするような人間じゃないけど、でも……家族の一人がそうだとなれば、話は別かもしれない。 「…僕、子供も作れないし、お嫁さんも連れてこられないし…」 「子供ねぇ…。それならきっと、明理が10代20代でデキ婚して、離婚して連れて帰ってきた子をお母さんが面倒見なきゃいけないじゃない。もう若くないんだし、それで手一杯よ。嫁姑問題で揉めるくらいなら、柊一君がうちの子みたいなものなんだから、忍がお嫁さんでしょ。そっちの方が気を遣わずにこき使えていいんじゃない?」 「っ………」 唖然─── お母さんの未来予想図、そんな風になってたんだ……。 「大体ね、私はあんたのお母さんなの!なんで息子を気持ち悪いなんて思わなくちゃいけないの。女になりたいって言われたってドンと来いよ。それより明理の男癖の悪さの方が心配で…」 「───お母さんっ!」 「はいはい。よしよし」 ぎゅーっと抱き付いた僕の体をお母さんが幼児にするように背中をトントンってあやしてくれる。 夢に見た、きれいな世界に僕は居たんだ───

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