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86.関谷君のオタトーク【柊一Side】
チリン…と小さく入口のベルが鳴る。
そぉっと静かに扉を開く客は、俺が知ってる限り2人きり。
ミヤちゃんって恋人のいるタチでオタクの関谷は、もう隅の方に座ってミヤちゃん待ってっし、そしたら後は───
「いらっしゃいませ、平井くん」
「こんばんは、リュートさん」
───やっぱり。俺の可愛い忍だ。
「忍」
「柊くん、遅くなってごめんね」
ツッキー達にも手を振り挨拶しながら、俺の元に急く気持ちを押さえて早歩きの忍。
その手には、淡いブルーの小さめトートに、少しデカめの紙袋。
忍は何故か俺の前をスルーして、カウンターの跳ね上げ扉の前で足を止める。そして、同じくそこへ足を向けたマスターにその袋を手渡した。
「リュートさん、よろしくお願いします」
「はい。お預かりします」
頭をぺこりと下げて、再び速足で今度こそ俺の元にやってきた。
「柊くんっ、あのね」
頬が赤く染まった顔で、手を握られる。
「しの───」
「忍くんっ、こんばんはっ!」
背後から掛けられた声に、忍の手がスッと離れていった。
「こんばんは、関谷さん」
挨拶を返した忍だが、相手に対して少し怯えてる。
それもしゃーねぇ事。この男が、忍を見ると異様に興奮する変態だからだ。
「関谷!テメェは忍に寄んな、鼻息荒ぇんだよ!」
「しょうがないじゃないですかぁ、忍くんは『魔女っ子男子』シリーズの青蘭くんにソックリなんですから!」
ほら、はじまった。
「青蘭くんは凄く恥ずかしがり屋で、未だに変身ポーズや変身後のコスチュームで照れちゃうシャイボーイなんですよ!グリーンにスカートを捲られたりブラック仮面様に庇われたりする姿なんて、レッドを差し置いてお前がヒロインか!って感じですよねっ。水属性ゆえの泣き虫なところとか透明感とか物静かなところとか、どうです!忍くんに似ているとは思いませんか!?」
「はぁ?忍のが可愛いに決まってんだろが。大体そんな絵のヤツと忍と…」
「絵の奴ッ!?───はぁ…、いいですか、秦野君」
おい、そこで溜め息って…、コイツに呆れられるようなアホな事、何一つ言ってねぇぞ俺は。
「忍くんを初めて見た時、僕は途轍もない衝撃を受けたんです。三次元が二次元に追い付いた!追いついてしまった!と。そもそも二次元では可愛い子を可愛く書こうとしているのだから、三次元より可愛くなるのは当たり前なんです。物っっっ凄く可愛いんです、天使なんです、キラキラなんです。ハートビーーム!キュンキュンッ。しかし三次元はそうもいかない。特に男子!女子はメイクやコンタクト、プチ整形やらでいくらでも誤魔化し修正を掛けることは出来ますが、素顔の男子!それがこんなに可愛いとは!!ああ、誤解しないで下さい、僕の好みではないんです、僕の好みはまるまるそのまんまミヤちゃんなので。魔女っ子男子でもブルーよりもツンデレレッド派です。略してツンデレッド!ツンデレ、いいですよねぇ…。あっ、勿論リュートさんもお綺麗でいらっしゃいますよ!ですがリュートさんの綺麗さは二次元というより…」
早口なクセに話長ぇし。聞き取れねぇ上に、テメーのオタクトーク興味ねぇし!!
※関谷くんのトークは本編とはなんの繋がりもありません。
読み飛ばして頂いても大丈夫です。汗
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