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89.チョコとキャラメル【柊一Side】
けど、忍のありがとうは、そこに向けられたものじゃなかったらしい。
マスターの手に銀のトレイ、その上には2つのグラスと2枚の皿が乗せられていた。
皿にはチョコケーキと、なんか茶色いけどチョコとは違うっぽい色合いのケーキが1つずつ、それぞれ2種類のケーキとフォーク。
「平井くんには紅茶リキュールで、秦野くんにはカルーアでカクテルを作ってみたけど」
大丈夫かな?と窺いながら、テーブルにコースターを並べその上にグラスを置いていく。
「はい、ありがとうございます」
「マスターのカクテルなんでも美味いから平気ですよ」
「ありがとうございます。じゃあ平井くん、皆で頂きますね」
「はい。お口に合うといいんですが」
マスターを見上げて、少し緊張気味に微笑む忍。
口に合うと…つーことは、これ、忍が買ってきたケーキってことか?
マスターが戻っていくと、忍は俺に、皿の上のフォークを渡した。
「あの、ね、皆に心配掛けちゃったから、お詫びと感謝の気持ちで、作ってきたんだ。柊くんも食べてくれる?」
「は?これ忍が作ったの?」
「お母さんに手伝ってもらって…だけど。チョコケーキとキャラメルクリームの紅茶のケーキ。その…美味しく出来てると思うんだけど。…一応」
「~~~~~~っ!!!」
なんだよ、なんだよもう、可愛くて気が利いてケーキまで作れるとか、俺の忍、ちょっと出来過ぎじゃねーの!!?
「あのっ……柊くん…?」
頭を抱えて悶えてると、心配そうに声を掛けられた。
……やべぇ、覗き込んでくる表情とか、更に可愛くてヤベェ悶える!!
「いただきます!うめぇ!」
口に入れた途端に叫んだ。
「……うそ…、まだ味分かってないよね?」
疑いの眼差しを向けられた。
「ん…ごくん。いや、纏う空気から美味い。つか、超ふわふわしっとりだし、チョコホイップも甘すぎねーし、スゲー美味いじゃん。忍、天才」
「あ、…でも、お母さんに手伝ってもらったし…」
「でもじゃねーの。忍が気持ち込めて作ったから、なおのこと美味ぇんだろ?まあ、忍が食わしてくれたら、もっと美味くなんだけどな」
「う……、それは、また2人の時に…」
もごもごと最後は聞こえ辛かったけど、顔を赤く染めてケーキをぱくっと勢いよく咥える照れ隠しの仕草が可愛い。
ケーキを食べた皆から次々と美味しいとありがとうを貰って、忍は始終恥ずかしそうにしてた。
けど頬はずっと緩みっぱなしで、スゲー幸せそうで、スッゲー嬉しそうだった。
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