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90.あの話【柊一Side】
忍のケーキを食べ終えた店内には、普段よりもまったりとした時間が流れていた。
ツッキーのパートナーの香島さんと、その部下でもある、マスターのパートナーの功太さんも合流して、カウンター席に戻った俺の左は忍、右は香島さんに挟まれてる。
忍の左は功太さんで、マスターと3人で話をしながら忍は楽しげに笑っていた。
この隙に、と俺は香島さんにゲイ婚についてをこそっと教えてもらった。
それから、香島さんの更に右側、ツッキーに願い事を告げた。
『ネコの精液は甘くて美味い』って話の口裏合わせだ。
ツッキーは眉根を寄せ、赤い顔で憤慨しながらも承知してくれた。
「怒んなよー。しゃーねぇだろ、そうしねーと飲ませねぇんだから」
ボヤいた俺に、香島さんが耳打ちしてくれた。
ツッキーは俺の嘘に怒ったのではなく、恥ずかしくて真っ赤になってしまっただけなんだ、と。
流石パートナーっつーか。ツッキーのこと、よく分かってんよなぁ、香島さん。
ッし、取り敢えずは、目指せ香島さん!だな。
んで、追い付いたら俺も社長ってことで、忍に楽させてやろう。←能天気
「なあ、ツッキー」
香島さんの向こう側、カウンターテーブルに突いた腕に顔を付けて覗き込む。
「忍って、可愛いよな」
惚れた欲目じゃねぇよな、と小声で確認すれば、ツッキーは力強く頷いて、声音は俺に合わせて抑えつつ答えてくれる。
「滅茶苦茶可愛い!俺、あんな可愛い男の子初めて見たもん」
香島さんがなにか言いたげに口を開きかけて、思い留まる。
多分、ツッキーのが可愛いとかなんとか言いたいんだろう。
けど、そこでそう挿まれると話が続かなくなるから、空気の読める大人な香島さんに感謝。
じゃあまあ、ツッキーは忍の次に可愛いってことで手を打ちますか。
つか、ツッキーと忍とじゃジャンル違いだろ。
童顔少年顔部門と、童顔美少女顔部門ってとこか。
よーちゃんはセクシー美人部門で、マスターは女神系美人部門。…って、今はそんなんどーでもいいんだった。
そもそも男で女神系美人なんか滅多にいねーよ。
「あの話、知ってる?」
あの話?と首を傾げるから、更に身を乗り出して声を潜める。
「忍の小学生ん時の話」
「いじめっ子が居たって話?」
「そう、それそれ、んぶっ」
気付かず顔を近づけすぎたのか、香島さんの掌で顔面を押し戻された。
かと思えば目の前に香島さんの後頭部が現れて、小さく、ちゅっと音が聞こえた。
…はは……俺に嫉妬しなくても、ツッキーにキョーミなんて無ぇのにな…。
「もーっ、悠さんっ」
香島さんに怒ってるツッキーは俺に向けるときの暴力的な雰囲気が丸々消えて、まるで牙の抜けたサーベルタイガー 。すっかりネコちゃんでまぁ可愛いって言やあ可愛いかもしんねーけど。
「んでさ、ツッキー。そのいじめっ子ってヤツさ、ぜってー忍のこと女だと思って惚れた途端男だって分かって、んで嫌がらせしてたんだと思わねぇ!?」
これだ、これ。俺がずっと思ってたことで、誰かと意見を分かち合いたかった事。
忍は滅多に昔の話なんかしねーし、俺以外で話そうと思うのなんざ、ツッキー以外にいっこねー。
それにツッキーなら、忍のこと大好きだからおんなじ事考えるだろ!
「あ、それな!俺も思った!でも、忍くんがそんなこと無いって」
赤くなってる頬を両手で隠しながら、ツッキーが話に乗ってきた。
「忍は否定すんだろ。未だに自分が誰より可愛いってことに気付いてないんだぞ」
「えーっ、でもさ、他の子たちと仲良くさせないけど、そいつだけは話し掛けてくるとか、絶対そうじゃん」
「だよな! で、アレも。パンツもさ、あれ担任が盗んでるよな。スキンシップ多かったって言ってただろ? んで、パンツ盗んだのバレてクビんなったんだって、絶対」
「えっ…、パンツ…は知らない。俺、聞いて良い話…?」
「は…、マジ!? パンツ…知らねーの?」
あ…、ヤベェ。忍の言ってねぇこと、バラしたっぽい……?
「パンツがどうしたの?柊くん?」
「───っ!!」
いつの間にか忍がこっちを向いてて、俺の袖をくいくいと引っ張りながら訊いてきた。
「いやっ、………ツッキーこう見えて、小学校の頃からトランクス派なんだってさ。んで、香島さんがブリーフだっつーからビックリしてさ!」
「はぁっ!?なんだよそれっ、俺も悠さんもボクサーだっての!」
「あっ、こらツッキー、話合わせろッ」
「…皐月、下着の派閥を叫ばない…」
「え…っと、お揃いで、仲いいんだね」
誤魔化そうとした相手に、フォローさせちまった……。
ホントいいこ。
頭をヨシヨシと撫でると、忍はちょっと首を傾げてはにかむ。
「あのね、柊くん。マスターから柊くんにね、大切なお話があるんだって」
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