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91.大切な話
マスターがこそっと教えてくれた大ニュース!
皐月くんと香島さんとお話してた柊くんに声を掛けて、マスターに発表してもらおうとしたんだけど……
何故か3人はパンツの話をしてた。
皐月くんがトランクス派で香島さんはブリーフ派って柊くんが言ったら、皐月くんは大声で2人ともボクサー派だ!って否定。
僕はパンツにこだわりないから、お母さんが買ってきてくれるものを穿いてるけど…。
将来家を出たら、自分で決めて買わないとだよね。
…どうせだから、柊くんに選んでもらいたいな、なんて考えて、ちょっとニマニマしちゃった。
誤魔化そうと、慌てて皐月くんにフォローを入れると、柊くんはくすっと笑って、頭を撫でてくれた。
ちょっと恥ずかしかったけど、柊くんの手の感触に落ち着いて、漸く伝えることができた。
「あのね、柊くん。マスターから柊くんにね、大切なお話があるんだって」
「ん?───なんですか、マスター?」
柊くんがカウンターの向こうに顔を向ける。
柊くんの向こう側で、皐月くんがクスリと笑うのが見えた。皐月くんももう知ってたのかな?
「平井くんから聞いたんだけど、秦野くん、今アルバイトしていないんでしょう?」
「今っつーか、バイトしたこと無いですね。高校バイト禁止だったし」
柊くんは生活を全部、仕送りで賄っているらしい。遣り繰り上手なのかな。
僕なんて、実家暮らしなのにアルバイトしなきゃお昼代もままならないもん。もうローズに来られなくなっちゃう。
まあ、高校の時は校則を守ってと言うより、面倒だからバイトしなかった、って言ってたような覚えがあるけど。
「週3日ぐらいで働いてみる気はない?」
「バイトの紹介っすか…?職種にもよるけど…、事務とか大方ムリですよ」
マスターの問い掛けにそう答える柊くんだけど、実はノートはとっても綺麗に纏められてる。
やりたくないだけで、出来ないわけじゃないと思う。
「勤務地は〇〇町駅近く、大学の終了時間にもよるけど、19時から22時、3時間入れたらいいかな。業務内容は初めは接客と、アルコール等ドリンクのサーブ。慣れてきたら作る方にも挑戦して欲しいと思ってるんだけど、どうかな?」
「は…、え?それって、…ここっすか…?」
勘の鋭い柊くんは、すぐに勤務先がローズだって気付いたみたい。
「うん。実は、特別席に座りたいってお客様が増えていてね、あの席は解放できないけど、別にテーブル席を増やしたり、お料理のメニューを置いたりもしたいし、そうしたら1人じゃ回らなくなっちゃうでしょう?本当は皐月くんが一緒に働いてくれるのが一番なんだけど」
「俺、今の仕事辞めないもん」
すかさず口を挿んだ皐月くんに、マスターは「本人がこの調子だから」と苦笑する。
「てか、それだって、なんだって白羽の矢が俺に……」
「そりゃ当然、」
ぼやくような柊くんの疑問に返答をしたのは夏木さんだ。
「店の用心棒になるような男って言ったら、まあ大概タチになるだろ。けど、タチでリュートさんにちょっかい出さなそうな奴って、そうそう居ないんだよ」
「普通にいると思うんだけど…」
夏木さんのもっともな言葉に、マスターは納得がいかないみたい。
「秦野くんなら、リュートさんに興味無いだろ」
「あー…なるほど…。確かに俺、忍にしか興味ないっすね」
手の平でぽんぽん、って肩を抱き寄せられて、顔が熱くなる。
「って訳で、リュートさんをよろしくお願いします」
夏木さんが、柊くんに向かって頭を下げた。
「ちなみに秦野、ローズはリュートの店だが、俺の会社の外食事業部でもある。時給の良さは保証するぞ」
柊くんが密かに憧れている香島さんが、すかさずフォローを入れる。
「柊くんがローズで働くようになったら、僕お仕事終わるまで席で待ってるから、一緒に帰って、…お泊りさせてもらってもいいかな?」
僕も、さっきマスターに教えてもらった「おねだり」の言葉を柊くんに向けた。
「っ~~~!!働きます!つか、勧誘に忍巻き込むとか卑怯っしょ!!」
柊くんはいとも簡単に了承し、ローズでアルバイトを始めることになったのだった。
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