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第3話

「私は松任谷高志(まつとうやたかし)という名前だが、偶然にも北海道から来た彼も同じ名字だった。  松任谷劉生(まつとうやりゅうせい)。彼の祖父が画家、岸田劉生(きしだりゅうせい)のファンでそう名付けたそうだ。彼の家には小さな油絵が飾ってあったな。  部屋の扉には部屋番号と表札が出ている。  302号室。松任谷高志、松任谷劉生と並ぶわけだ。  誰言うともなく松任谷部屋と呼ばれてね。しまいにはトーヤ部屋だよ。  そこで我々、トーヤは……毎晩のように、こ、こういうことを……していた」 「ふっ……う、い……いいっ、そ……そこ、そこッ!」  ジジイのアレが颯太の内部の最も感じる部分を責めている。思わず知らず腰を動かしている。 「私は法学部で彼は文学部だったから、大学構内ではあまり顔を合せなかった。けれど寮では部屋だけじゃなく、食堂や風呂場でもいつも彼と一緒だったよ」 「いっ……ひぃっ……いつも、こん、こんなことを……?」 「部屋でだけだよ。こんなことをしたのはね。外ではちゃんと距離をおいて接していたよ。  当時はね、男同士でまぐわうなんぞ異常者扱いだったよ。  ゲイだのLGBTQだの……そんな結構な言葉はない時代だった。単なるオカマだ。だからいろいろ気を使ったものさ。  私はきちんと結婚したしね」 「えっ? 結婚……してるんですか?」 「してるとも。ちゃんとした大人はみんな結婚する時代だった。独り者もオカマも異常者なんだよ」 「そういうの、コンプライアンス違反……」 「そんな言葉は昭和の奴らに言ってくれ。私は見合いで結婚して……ビギナーズラックというのはあるもんだな。初めての夜に女房相手にちゃんと勃起して挿入できた。こういう風に……」  と、またぐりぐりと強く挿入するジジイである。  颯太もまた「はぁん」と呻く。頭ががんがんするほどに感じている。全身が熱の塊になって喘いでいる。程なくイク。またも達してしまう。  そう思いながら涎を垂らして両手で手摺りにしがみついて自ら激しく腰を振っている。 「全くラッキーだった。ハネムーンベイビーとか言われて……娘が生まれた。それっきりだ。女房としたのは。  育児の手が空いて二人寝になっても、あれは処女で嫁いだからどうやって男を口説けばいいのかわからない。  妙にスケスケのネグリジェを着たりして。努力はしてくれたが……私とて頑張ってはみたよ。亭主の務めだからね。  けれど、勃たないものは勃たない。女のぐにゃぐにゃした身体は勢いが萎えるばかりだった。やっぱりこういう硬くて丈夫な男の身体でなきゃ……」  ジジイは前に手を回して颯太の逸物を握ってしごく。 「若い頃はそんな自分を恥じていた。だが今は……もう許してやってもいいだろう。  年をとるのもいいもんだ」  人のケツの穴にナニを突っ込んで言うことでもないだろうジジイ。 「イッ、ク……出、やっ、もう……あっあっ……!」  白い液が放たれて街灯の明りにきらきら光って闇に落ちた。 「彼も強かったな……真っ白な頬を紅潮させて白目が青白く見えるほどに澄んだ目が、もう淫乱に赤く染まるんだ。そうして一晩に何度もイクんだよ。もう可愛くてなあ……」  颯太ははぁはぁと肩で息をして手摺に縋っている。木肌を模した人工のざらざらした手触りである。振り向けばジジイは愛し気に颯太を見下ろしている。 「すまんな。私はまだイケない」  つながったままのジジイは、またゆるりと腰を動かしている。スプリングコートの前をはだけてズボンの前立てから逸物を出しただけである。  颯太の滑稽なケツ出し姿とは打って変った立派な熟年サラリーマンの姿である。 「やっ……やめっ、て……も、やめてよ!」  颯太は自分の指を何本も口に咥えて噛みしめる。快感を堪えないと。息が上がって死にそうである。 「昔はスマホなんかなかったから。電話は寮の受付に一台あるだけだった。電話がかかれば寮母さんが出て、寮生に対するものなら館内放送で呼び出すわけさ。 〝203号室の松任谷さん、お電話です。受付までお越しください〟ってなもんだ。  松任谷さんたって二人いるんだが、いつも名前は呼ばれなかった。文学部の彼は忙しいのか寮に帰って来るのは夜遅かった。  電話に出るのはいつも部屋にいる私だった。大体が彼のお母さんからだったよ。自然に親しく話すようになっていた。夏休みには招かれて北海道の彼の家にも行ったものさ」 「……泊まりに……いっ、行った?」 「ああ。広い家だったな。旭川市の郊外にある実に立派なお屋敷だったよ。  広大な敷地に何棟もの平屋が立ち並んでいるんだよ。彼の家の他に祖父母やら既に結婚している姉夫婦やらが、それぞれに暮らしていたのさ。合間には豪華な日本庭園があったりして。  私なんぞ単なるサラリーマン家庭の育ちだから、もう夢の国に来たかと思ったよ。  お祖父さんが始めた洋菓子会社が大きくなったそうで。当時はお父さんとお兄さんは札幌の本社で働いていた。旭川の家には彼とお母さんが暮らしていた。  いずれは札幌に引っ越すかも知れないと言ってたけれど……」 「そ、それで……家族ぐるみの、つき、つきあいに……?」 「突き合い? ……突いているんだが。すまんね。なかなかイカない」  また、ふふふと笑うジジイである。颯太の腰を両手でがっしり抱え込んで下半身を動かし続ける。  オヤジギャグかよ!  常ならそう思うはずなのに、今や悦楽の波に翻弄されて理性など微塵もない。 「あっ……そっ、そこ……もっ、もっと……もっとぉ!」  などと嬌声を上げるばかりである。  言いたいのはそうじゃない。 「話すかやるかどちらかにしてくれ!」  なのに理性的な声など出やしない。 「……歓迎してくれたのはお母さんだけだった。別の棟に暮らしていたから他の家族と顔を合わせることも少なかったが。お姉さんは私のことを胡散臭そうに見ていたな。女は敏感だから……私と彼の関係を疑っていたのかも知れないな」 「彼の……実家でもこういうこと……し、してたからでしょう」 「するわけないだろう。三日ほど泊めてもらって、彼と二人で客室に寝たんだよ。別々のベッドで。キスのひとつもしなかった。万が一ということもあるからな。  そもそもお姉さんが小型犬を何匹も飼ってて、シーズーだのポメラニアンだの……どいつもこいつもキャンキャン吠えて、こっちの屋敷まで駆け込んで来るからうんざりしたよ。  本当は一週間ほど世話になるつもりだったけど、早々にお暇して北海道一人旅に切り変えたよ。時間だけはあったからな。ユースホステルに泊って北海道中歩いたものさ」  と言った後に、ジジイはぶるっと震えた。ようやく達したらしい。  颯太も「イッ、クッ」とのけぞったもののペニスから噴き出したのは白い液ではなかった。何やら透明なものが迸っている。 「あっ……⁉ やっ‼」  と悲鳴を上げてしまう。  透明な、その液体はまるで……自分は小便を洩らしているのか?  恥ずかしいやら口惜しいやらで声を上げて涙も漏らす。  ジジイが背中に覆いかぶさって来たのを支えきれず、どさりとばかりに二人して地面に座り込んでしまう。  それでもまだ颯太のものはびくびくと透明な液を吐き出しては地面を濡らしている。まんまションベンではないか。  身体を震わせ、ひいひい泣きながらそれを眺めるしかなく、口元からは涎が滴る。もはや体内の液体総動員である。 「潮を吹いたか……もうスペルマを、精液を作るのも間に合わないで出てしまう。若さだな」  と荒い息で満足げに笑うジジイである。  そしてがくがく震えている颯太の身体を優しく両手で抱いている。荒げた息が治まり涙が止まるまで、そうしていてくれた。

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