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◉1◉トモとユウヤ3_アツイから
「トーモー! 来たよー!!」
数秒外に出ただけて茹だるような暑い日、しかも一番日差しの強い午後三時。またもや玄関先でデカい声を張り上げて、ユウヤが突然やってきた。
ちなみに、突撃の日以外は大体一緒にいて、俺がユウヤの家に行く。うちには母さんがいるけれど、ユウヤの家は平日はおじさんもおばさんも帰りが遅いから、誰もいない。
付き合い始めたばかりでイチャイチャするなら、誰もいない家に行くのが当然だろうとばかりに、二人で部屋に篭っていることが多い。
今日はあまりに暑いため、さすがの俺も急いで階段を降りていく。その途中でまた母さんがひょこっと顔を出し、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「もうユウちゃんに鍵渡す? どうせずっと一緒にいるんでしょ?」
揶揄うつもりでそう言っているのか、気がついてそう言っているのかはわからないけれど、その視線が妙にイラついた。どうせなら本気だと理解してもらおうと思い、その場に立ち止まって母さんの目をじっと見つめた。
「いいならそうするけど? だって俺たち、死ぬまで一緒にいるから」
「えっ!? やっぱりあんたたち付き合ってるの?」
そう言って楽しそうな顔をして俺の後をついてきた母さんを放っておいて、そのまま玄関へと向かう。そして、いつも通り大きな音を立てて鍵を開けたら、ゆっくりとドアを開けた。
「トーモーぉ……あづいー」
「だっ大丈夫か!? 真っ赤になってるぞ!」
ユウヤは俺の腕の中に倒れ込むと、息が上がって苦しそうに呻いていた。どうやら軽い熱中症のようで、体が熱くなっている。その様子を、俺の後ろでニヤニヤしていた母さんが見咎めて、俺を怒鳴りつけてきた。
「トモナリ! 早く中に入れてあげなさい! あんたの部屋のエアコンの設定温度下げてくるから、そこで服脱がせて保冷剤で冷やしてあげておいて!」
「わ、わかった」
鬼の形相で俺に向かってそう叫ぶと、母さんはバタバタと二階へ走っていった。運動不足の母親を走らせる方が俺には心配だったけれど、ユウヤの服を脱がせるのは、母さんには出来ないだろう。
あの人は息子がいるくせに、なぜか男の裸を見ることが出来ない人だ。俺や父さんの裸もダメなんだと言われている。不思議な人だ。
「ユウヤ、ちょっとここに寝かせるからな」
俺が声をかけると、ユウヤは小さくコクリと頷いた。呼吸が浅くて苦しそうだったので、すぐにシャツのボタンを全部はずした。
「あつっ……あんな短時間でここまでなんのか」
抱き上げて袖を抜くと、またそっとソファに体を下ろす。窓際に走り、遮光カーテンを引いてから、ユウヤのサングラスを外した。眉根を寄せて辛そうにしている姿を見ていると、何か少しでも楽にしてあげたいと思い始めた。だから自然と、体が動いてしまった。
息が苦しそうだからキスは出来ない、肌に触れながら汗を拭いて、太い血管のある場所を保冷剤で冷やしていった。ただ、ケアが必要ならと思って、下着の中に溜まった熱を出してやることにした。
「あっ」
くちゅ、と濡れた音がリビングに響いた。一瞬どうしようかと思ったけれど、構わずそのまま続けることにした。
——ガイドの息子がいる時点で、覚悟してもらわないといけないことだから。
それに、大切な恋人が苦しんでいる。少しでも力になれることがあるなら、してあげたいと思うのはおかしくないはずだ。
濡れた先端にキスをしていると、少しだけ聞こえていたスリッパの音が、ぴたりと止まったのがわかった。多分、母さんが俺のしてることに気がついたんだろう。
——ごめんな、聞きたくないだろうけど……。
今はそれに気を使ってる場合じゃないんだ。
「は、あ、あ」
口に咥えたものをそのまま奥まで迎え入れ、じゅっと強く吸い上げる。そして、そのまま熱をゾロリと口の中で舐め上げた。
「ああっ」
——少し回復したっぽいな。
多分、熱中症の症状そのものよりも、受け取った視覚と触覚と嗅覚の情報が多すぎてゾーンに入ってしまったんだろう。夏の色や匂いを堪能するだけで体調を壊してしまう。センチネルは本当に大変だ。
口を窄ませたまま首を動かして、俺の唾液を少しでも多く接触させる。それが、今一番効くケアだ。片手でユウヤの手を握り、もう一方の手では腰や臍の周りをするりと撫でた。
『ユウヤ、ケアしたら多分かなり楽になれるはずだから。そのまま気持ちよくなって』
繋いだ手からテレパスすると、ユウヤは小さく何度も顎を引いて答えた。
「あ、あ、あ、で……るっ、んんんっ!」
飛沫が上がる瞬間に俺は顔を引いた。腰を跳ね上げながら飛び出したそれを、拾い集めて指に絡ませる。そして、下着を引き抜くとそれを後孔に塗りつけた。
「朝準備した? 今ちょっと我慢できる?」
ユウヤは、短い息をたくさん吐きながら、涙を流していた。その表情を見る限り、熱中症の危険は去ったようだ。ただ……。
「出来ない! すぐして!」
ふるふると震えながら、俺の目を見つめていた。その目は、ただの制欲旺盛な青年の目だった。身体的にも能力的にも命の危険はないらしいことがわかって、俺はほっとしていた。
「なんだ、平気そうだな。ちょっと待って、とりあえず部屋……」
ただ、ユウヤとしては体が欲望のピークの状態で放り出されているので、全く我慢が効かなくなっていたらしい。俺がそのまま手を休めたことに、かなり怒っていた。
「だめ! 今して!」
そう言って駄々を捏ね始めた。
そうは言っても、ここはリビングだ。さっきは緊急事態だったから、親がいようが関係なかったけれど、そうでないなら少しは遠慮しないといけない。
かといってこのまま放っておくと、今度は落ち込んでゾーンアウトするかもしれない。困り果てていると、頭上からタオルケットの塊が投げつけられた。
「って! ちょっと、なんで投げつけるんだよ」
二階の廊下を見上げると、そこに背を向けた母さんが立っていた。こっちを見ないように配慮しているのか、そのまま大きな声で俺たちに話しかけてきた。
「ほら、それで体隠して、さっさと部屋に行きなさい。ユウくんがセンチネルであんたがガイドなんだったら、こうなる日が来るだろうとは思ってたから。でも、さすがにユウくんの裸は見られないし、あんたたちの声を聞くのは居た堪れないから、私はこのまま出かけてくるから」
そう言って、俯いたままバタバタと廊下を走り、寝室へと消えていった。
「あ、ありがとう!」
俺が叫ぶと「いいのよ!」と一言だけ返ってきた。
「ユウヤ、そういうことだから、部屋までは我慢して」
ユウヤは顔を真っ赤にして「そう言えばおばさんいたんだったね……」と呟いた。どうやら、熱に浮かされて忘れていたらしい。俺は急に恥ずかしがり始めたユウヤを、そっとタオルケットで包み込んだ。
「そうだよ。さっきめちゃくちゃあんあん言ってるの聞かれちゃったね」
抱き抱えながらそう言って額を合わせると、ユウヤは真っ赤になって逃げようとした。でも、残念ながらぐるぐる巻きにしたので、ほとんど身動きは取れていない。
「もー! なんでそういうこと言うんだよ……もう恥ずかしくて、トモんち来れない!」
顔を埋めて恥ずかしさから逃れようとするのが可愛くて、顕になった首筋にキスをした。「ン、」と言って身を捩ったユウヤは、俺を睨みつけている。
「大丈夫だって。これから出かけるらしいから、俺の部屋でゆっくりいちゃいちゃしよう」
「……いいの? なんか追い出したみたいで悪いな」
階段を登り終わって、ユウヤを下ろしたところで、ちょうど母さんが外出の準備を終えて部屋から出てきた。廊下の角でバッタリ顔を合わせて、二人とも羞恥心に火がついたのか、面白いくらいに挙動不審になっている。
ユウヤは「お、おばさんごめんね。なんか追い出すみたいで……」と母さんに声をかけた。しかし、そこはやはり親なんだろう。母さんは、赤い顔をしながらもユウヤに優しく声をかけた。
「いいのよ、仕方ないじゃない。それに、ユウちゃんもトモナリを好きでしょう? だから何も気にしないでいいのよ」
その言葉を聞いて、ユウヤは痛く感激したらしい。俺の手から飛び降りると、母さんの方へと走り寄っていった。
「おばさん、ありがとう!」
そう言って抱きついたユウヤは、タオルケットが全部落ちて全裸になっていた。
忘れてはいけない。うちの母さんは、息子がいるにも関わらず、男の裸にめっぽう弱い。俺が「まずい!」と気がついた時には、もう遅かった。
「きゃー!」
耳元で金切り声を上げられたユウヤは、それを想定していなかったからか、まともに衝撃を受けたようだ。真っ青な顔をして、そのままバタンと倒れてしまった。
「ちょっ……もーほんとに、お前は! ……仕方ないなあ。じゃあね、母さん。気をつけていってらっしゃい!」
俺はぐったりしているユウヤを抱き上げて、自分の部屋へと走った。
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