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第2章 第9話 プロポーズ

「まずは、じゅん君が今構想してる事業を早期に実現できるようにして僕の会社が後押しするようにしよう」 「え? そんな学生のアイディアなんか採用していいの?」 「当たり前やん。僕のお嫁さんやねんから。それに未来の重役やし」 「え? え? お嫁さん? 重役?」  何を急に言い出すんやろ? 重役って亜紀良の会社の? 無理無理……。 「でも、じゅん君の事やから何か実績を上げな重役には落ち着いてくれへんやろ? そやから先に事業を成功させよう」 「あ、ありがとう。そやな。実績ないのが急に上司になんかなられへんわ……って、そういうんやなくお嫁さんって結婚の事?」 「あ! ごめん。僕の悪い癖が出たな。先にプロポーズしなあかんのに。また先走りしそうになったわ」  展開が早すぎて俺の思考がついていかへん。 「いや。あの。待って……そうじゃなくて……」 「朝比奈じゅん。僕と。高塚亜紀良と一生を供にしてください。じゅん君僕と結婚しよう!」 「ちょっと……なんでそんな……っ」  そうなれたら良いなってどこかでは思っていた。嬉しい。嬉しいけど。 「叔父と甥は結婚出来へんやんか!」 「うん? 大丈夫やろ血族やないから。僕は養子なんやで」 「へ? 養子って?」 「言うたやろ? 高塚の家はアルファ重視の家やって。兄さんが産まれてしばらくして次の子がなかなか出来なかったみたいでな。外に作ろうとも本妻さんが半狂乱になってそれも叶わなかったみたいやわ。それで他からアルファの出来のいい子を養子にしたんや」 「それが亜紀良さんやの?」 「そうや。だから僕は高塚の家が嫌いやねん」 「知らんかった……」 「まあね。僕は兄さんのスペアみたいな存在やったから。このことは公にはなってないんや。偏差値が高くてアルファ性の高い子やったらだれでもよかったんやろ。あの家は人格を見てない。バース性がすべての歪んだ家や」  確かに物事の基準がおかしいとは思う。アルファでなければ家族としても見てもらえない気はしていた。恐らく父親は話せばわかってくれるだろう。だけどバース性が関わるとアルファ重視の思考に優先されて、判断力が鈍るんだと思う。  別に愛してもらおうと思ったわけじゃない。もうそんな時期は通り過ぎた。  ただただ、虚しいだけだ。 「そうなんか。じゃあ俺なんかホンマに要らない子やってんな……」 「そ、それは違うで! じゅん君がいてくれたから僕は必死に頑張ったんや。僕が自分の出生の秘密を知って自暴自棄になってた時に笑いかけて懐いてくれたんはじゅん君やってんで」 「俺が? そりゃ、小さい頃から亜紀良さんの事は嫌いやなかったけど」 「そうや。君がいろいろと話しかけてくれて目を輝かせて僕をみつめてきてくれたから。僕はこの子をいつかこの家から解放できるぐらい力をつけようってそう思って頑張ってきたんや」 「えっとそれってつまり……」 「僕はそのころからじゅん君の事を手に入れるつもりやってんで」 「うっわ~」  そんな前から? なんかすっごい恥ずかしいっ。と同時に……。 「なに? ちょっと引いた?」 「うん。ちょっとだけ」 「あちゃあ。だから言わんとこと思ってたのに」  頭を抱えて丸くなる亜紀良の姿に口元が緩む。 「ふっふふふ。亜紀良さんってかわいいなぁ」 「何よソレ。何? 僕が可愛いって? こんなおじさんつかまえて」 「ふふふ。そんなおじさんが若い子に結婚申し込んでるじゃん」 「そうやけどっ……まさか……嫌……なのか?」  亜紀良の顔がどんどん自信なさげになっていく 「そんなはずないっ嬉しい!」 「じゃあ、返事きかせて。僕と結婚してくれますか?」 「……はい、喜んでお受けいたします」 「よっしゃあ!」  両手をあげて喜ぶ亜紀良さんに俺は抱きついた、ぐりぐりと頭をこすりつけると抱きしめられる。頬ずりされて軽くキスをもらえた。 「そうと決まればすぐに籍をいれよう! 式は教会が良いな。そや、会社の株式もいくつかじゅん君名義に書き換えようか? 家もどうせなら新居を買い替えて……」 「ちょっちょっと待って! それはまだ早すぎるって。とりあえず卒業するまで待って」  教会で式はちょっと憧れるけど。会社の株式って何? そんなのもらっても困る。それに新居を買う? そんなあっさり家って買えるものなの? 違うよね。俺の基準とかなり差がある。規模が大きすぎてどうしたらいいんかわからん。話しの前後が見えへん。いきなり飛びすぎる。 「しょうがないな。じゃあすぐに婚約しよう。でないと僕が落ち着かへんから」  こういうところが亜紀良らしい。 「ぷっ!くくく。相変わらずせっかちやな」 「そうや。待ってられへん。楽しいことは先延ばしに出来へんねん」 「わかった。婚約は受ける。でも、会社の株式は今はいらない。どうせなら俺の実力でもらいたい」 「ひゅ~。さすがは僕の未来の伴侶。わかった。それも卒業するまではお預けにしておこう」 「ん~。卒業してからもあんまり欲しいとは思わないかなあ。それに亜紀良さんの会社の全貌を俺は知らないからね」 「あれ。教えてなかったっけ?」 「ないよ!」 「わかった。じゃあ今度僕の会社を見てもらおう。ネットに詳しい者もいるからな」 「ほんま? 勉強がてらに行かせてもらおうかな」 「ああ。これからはオープンな付き合いをして行こう。なんでも疑問に思ったことは聞いて欲しい」 「うん。そうするよ」 「僕の裏の部分も目にすることになるかもしれないけど。たとえ嫌がっても僕はもう君を離せへんで」  もう覚悟はしてる。生い立ちを聞いてなんとなく亜紀良さんが貪欲に成功者としてのし上がって行こうとする気持ちがわかったから。バース性だけやなく自力でどこまでやれるかやってみたい人なんだろう。俺がどこまでついていけるかわからんが行けるところまでは一緒に行くつもりだ。

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