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心がしょんぼり2
律くんが暴力を振るわれるのは変わらないようで、その後もうちで湿布を貼って一晩泊めてあげるというのを何度か繰り返した。
事情を知らないから口を挟めないけれど、そこまで暴力を振るわれるのなら家を出ていけばいいのにと思ってしまう。
暴力を振るわれてまで一緒にいたいのだろうか。体中に痣を作ってまで。
律くんに好意を持っている俺としたら家を出ていけばいいのにと思う。
暴力を振るわれているのを見るのは辛い。
でも、暴力を振るっている彼も俺に見られているのを知っていながら暴力をやめないのは驚きだ。
それに律くんが翌日、湿布を貼った状態で帰ってくるのだから、誰かに手当して貰っているのもわかるだろう。
それでも暴力は変わらない。律くんに何か非があって暴力を振るわれているのだろうか。だとしたら目撃されていても暴力は変わらないかもしれない。
本当は律くんに忠告をしたい。逃げた方がいいと。でも彼らの事情を何も知らないから何も言えないのだ。
そしてある週末。ここ2週間くらい律くんを見ていなかった。
暴力を振るわれていないのか、それとも時間が違うのかは知らない。できれば暴力を振るわれていなければ良いけれど。
でもそうなると律くんに会うことはできなくて複雑だと思っていたとき、思いがけないところで律くんを見かけた。
部屋着がだいぶヨレてきたので新しいのを買おうとショッピングモールに行ったときに、律くんがあの彼と一緒にいるのを見かけた。
律くんは暴力を振るっているあの彼の横で、楽しそうな笑顔を浮かべていた。その笑顔は、あぁ、あんなふうに笑う子なんだな、と思わず見惚れてしまうくらいに綺麗だった。
そして、その表情を見てやっぱり二人は恋人だったのだとわかった。
家族に対してあんな表情を見せはしない。
そうか。恋人か。だからあんなに暴力を振るわれていても出ていかないのか。家族ならとっくに出ていっているはずだ。
俺はそのまま通り過ぎることもできるし、そうすべきなのかもしれないけれど、つい声をかけてしまった。
「律くん」
俺が律くんの名前を呼ぶと、律くんと隣の彼とがこちらを向いた。
律くんは俺と会ったことに純粋に驚いていたが、隣の彼は忌々しげに俺を見る。
彼が律くんに暴力を振るっているのを俺は知っていて、恐らく律くんに湿布を貼っているのは俺だと気づいているのかもしれない。
そんな男とばったり会ったって嬉しくないよなと思う。肝心の律くんは隣の彼がそんな顔をしているとは思わないだろうけれど。
「直樹さん! こんなところで奇遇ですね。買い物ですか?」
そういう律くんの顔は驚いていると同時に少し気まずい顔をしている。
それはそうだろう。俺は律くんが隣の彼から暴力を振るわれているのを知っているのだから。
でも俺は敢えて知らないふりをする。
「ちょっと部屋着を買い替えようと思ってね」
「そうなんですね。あ、賢人。こちら直樹さんだよ。うちの階の一番奥の家に住んでる人。すごく親切なんだ。直樹さん、同居人の賢人です」
「どうも?」
賢人と呼ばれた彼は小さく頭を下げながらも上目で俺を見る。ほんとは挨拶なんてしたくないだろう。ただ律くんの手前するしかないだけで。
「高地です。よろしく」
俺も挨拶を返す。笑顔で。
ほんとは笑顔でなんて返したくない。でも律くんが見ている手前、無下にもできないだけで。
「律くんも買い物?」
「ウィンドウショッピングです」
「そうなんだ? 今日はお天気もいいし家にいたくないよね」
「そうなんです。そのついででここまで来たんですけど」
「そうなんだ? お友達といるところ声かけてごめんね」
「あ、いえ。全然」
「じゃあまたね」
「あ、はい」
俺は去っていく2人をじっと見ていた。
俺の律くんに対する好意は少ししょんぼりしたけれど、それでなくなることはないようだった。
あれだけ暴力を振るわれても休みの日にこうやって一緒に出かけるくらいだから、きっと律くんは彼のことが好きなんだろう。
だけど、彼の方はどうなんだろう。律くんに対して気持ちはあるのだろうか? それとも、暴力を振るうだけでなく、出ていけと言えるくらいだから律くんに対して気持ちは残っているのかわからない。
出ていけと言っても翌日には帰ってこい、と言うのだから全く気持ちがないということはないだろう。
少しは律くんに情はあるということだろうけど、だとしたらどうして暴力なんて振るえるのかわからない。
好きな人に暴力を振るうということは俺にとっては理解できないことだった。
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