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元彼2

 スーパーでいつもより少し多く食材を買っていたら何気に時間が経っていた。  玄関で鍵を差し込み回すと、開くはずの鍵が逆にかかってしまった。律くんが開けたのだろうか。おかしいなと思いながら玄関に入ると律くんの靴がなくて、逆に少し前まで見慣れていた靴がある。  嫌な予感がしてリビングを開けるとそこには律くんの姿はなく、元彼の遼一がいた。  遼一が来て、律くんが玄関を開けたのだろうか。いや、律くんの性格からしたら俺がいないときに人が来たとして勝手に開けたりすることはないような気がする。  でも、実際に遼一はここにいる。 「どうやって入った?」 「え〜。そんなおっかない顔しないでよ。イケメンが台無しだよ」 「どうやって入ったかの訊いてる」 「どうやってって鍵開けて入ったよ」 「鍵って、ここの鍵はお前持ってないはずだろ」 「そんなの合鍵作ってあったに決まってるじゃん」 「合鍵?!」  別れるときに俺が渡した合鍵は返して貰った。それなのに、それとは別に合鍵を作ってあったのか。 「合鍵貰ったときにさ、失くしたときように合鍵作ってあったんだよね。それを使った」 「貸せよ、その鍵。お前が持ってていい鍵じゃないだろ」 「持ってていいと思うよ。直樹、また付き合おうよ。やっぱり直樹じゃなきゃ無理だ」  遼一と別れた理由は、遼一の浮気だ。浮気をして、俺より浮気相手の方がいいと言ったから別れた。それなのに俺じゃなきゃ無理だとか勝手すぎる。 「お前があの男の方がいいって言ったんだろ。今さらだよ」 「今さらなに? 俺よりあいつの方がいいわけ? そんなことないよね」 「律くんはどうした。靴がなかったけど」 「律っていうんだ。どうしたって帰って貰った。だって邪魔じゃん」  帰って貰ったって、無理矢理追い出したんだろうな。律くんの性格的に俺に一言もなく勝手に帰るとは思えない。 「邪魔なのはお前だよ。帰ってくれ」 「また付き合うって言ってくれたらね」 「もう付き合わないよ。自分勝手だと思わないのか」 「自分の気持ちに素直なの」 「自分に素直になるのもいいけど、少しは人の気持ちも考えてくれ。俺はもうお前に気持ちはないよ」 「俺より、あいつの方がいいわけ?」 「律くんはそんなのじゃないよ」 「なんだ付き合ってるんじゃないんだ。だったら俺とまた付き合うのに問題ないじゃん」 「今付き合ってる人がいようがいなかろうが、もう遼一とは付き合う気はないよ。だから出て行ってくれ。でなかったら不法侵入で警察呼ぶぞ」  俺の言葉をのらりくらりとかわすので、敢えて強い言葉を使った。  人の家の鍵を勝手に合鍵作ったとか普通に犯罪だろ。 「おっかな〜い。じゃあとりあえず今日は帰るね。また来るから、それまで考えておいて」 「考えても変わらないよ。帰るならその合鍵も返してくれ」 「なんで。合鍵なかったら来れないじゃん」 「人の家に来るならインターホン鳴らして来い。渡さないなら、このまま警察行こうか」 「おっかない、おっかない。俺と別れて性格悪くなったんじゃないの? あのお坊ちゃんのこと好きなの?」 「俺は変わらないよ。単にお前のことが嫌いすぎるんだよ。どうする。鍵を渡すか警察へ行くか。選択は任せるよ」  俺がそう強く言うとチッと舌打ちするのが聞こえた。  なんでこんな奴が好きだったんだろう。こんなに性格の悪い奴だったとは思わなかった。 「警察沙汰は嫌だからとりあえず渡すよ。でも、またすぐに俺に渡すことになるよ」 「安心しろ。そんなことはないから」  渋々鍵を出してきたのでそれを受け取り、とりあえず財布のコイン入れの方に入れる。  そして、遼一の背中を押して玄関から追い出すと同時に俺も靴を履く。  彼から連絡があって帰ったのならまだいいけれど、それでも俺に黙って帰るとは考えにくい。それならどこか外にいるか。外にいるような気がするから探しに行きたい。 「もう来るなよ」 「また来るよ」 「もう来なくていいよ。何度来たって、何度話したって変わらないから」 「頑固だな〜。ま〜、とりあえずまたね」  そう言うと遼一は帰っていった。  律くんはどこにいるんだろう。こんなことになるならメッセージアプリのID交換をしておけば良かった。  家に帰っているならいいけれど、もしまだ彼から連絡がなかったとしたらネカフェに行ったか、近所にいるか。  どちらかわからないけれど、とにかく探してみよう。

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