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元彼4

 直樹さんの元彼が来て部屋を追い出されてしまった。  ポケットのスマホを見るが賢人からのメッセージはないから帰ることはできない。  それに勝手に帰るのもどうかと思い、直樹さんの帰りを待つ。  スーパーに行くというのは知っているから、そこに行こうかとも思ったけれどすれ違いになる可能性を考えると行かない方がいい。  そう思い昨夜直樹さんと会った公園に向かう。この公園は奥のほうが視界が悪く、木や草が鬱蒼と茂り子供だけで遊ぶのは危険な場所だ。  それでも、手前のブランコやベンチは通りから見えるので、俺はベンチに座って直樹さんが来るのを待つ。  直樹さんが帰ってきても元彼がいるから、俺は暇を告げなくてはいけないけど勝手にいなくなるよりもいいかと思ったのだ。  ほんとに、なんでメッセージID交換しなかったんだろう。いや、なんでもなにもメッセージのやり取りをするような関係ではないからなんだけど。  実際、直樹さんと一緒にいるのは俺が賢人に暴力を振るわれたときしかない。わざわざ連絡を取って日時を決めて会うこともなければ、何気ない日常の会話をすることもない。それだけの関係だ。だから連絡先は知らない。  そっか。それだけの関係か。そんな当たり前のことに気づいたとき、胸が痛んだ。あぁ、好きになっちゃってたんだな、やっぱり。  好きになったて叶うわけでもない。  直樹さんにとって俺は単なるご近所さんで、たまたま俺が暴力を振るわれているのを知っているから助けてくれているだけだ。たったそれだけ。  そう考えるとちょっと落ち込んでしまうが、今は考えるのはやめよう。とにかく直樹さんを待たないと。  そう思って直樹さんを待っていると、声をかけられた。 「あのー」  おずおずと申し訳なさそうにかけられる声。  なんだろうと、振り返ると20代前半くらいの俺より下の男性に声をかけられた。 「ちょっと友人が体調崩しちゃって車に乗せたいんですが、1人じゃちょっと無理で。手貸して貰えませんか?」  見ると困っていそうな表情をして、チラチラと公園の奥へ目をやる。  でも、少し離れたときに直樹さんがくるかもしれない。そう思うと断ろうかと思う。でも、困っているのなら助けてあげたい気もする。  確かに1人で成人男性支えて車の鍵を開けて、というのはできないわけではないけれど確かに大変だ。  そう思うと手を貸してあげたいという気になる。  直樹さん来ちゃわないかな? それが心配で困ってしまう。いや、そんなことを考えているうちに時間だけが過ぎていってしまうから、さっさと手を貸して戻ってくればいい。そう思った。 「いいですよ」  そう答えるとその男性はホッとした顔をする。ほんとに困ってたんだなと思うと思うと、アレコレ考えていたのが申し訳ないように感じる。 「こっちです」  そう言って歩き出す先は公園の奥の草木が生い茂るところだ。  そんなところにいるんだろうか? 一瞬そんなことを考えるが、俺だって男だからなにかあるはずもないだろう、そう思って後をついていく。  そうして覗かないと奥が見えないようなところへ行くと、俺の前を歩いていた男性が振り返って俺の腕をひっぱる。  あまりにも急で強い力だったので、その場に転んでしまう。  なにをするんだ? そう思った次の瞬間にはどこに隠れてたのかわからない男性が3人やって来て、俺を押さえつける。 「ちょっ! なにするんですか!」 「なにって、いいことするだけだよ」  俺に声をかけてきた男性は、先ほどの困ったような顔は嘘かのように、ニヤリと笑った。騙された!   「離してください! 人を待ってるんです」 「えー。そう言って結構待ってたよね。そういう嘘をつくのは良くないな〜」  その言葉に、人を騙すのはどうなんだと思わなくもないけれど離して欲しくて暴れる。 「暴れるなよ。そんなことしてると、その待ち人がきちゃうよ。暴れないでさっさと済ましちゃおうよ。まぁ、気持ち良くて君がもっとって言っちゃうかもしれないけどね」  下卑た笑いを浮かべるその顔は見たくもなかった。  この先どうされるかなんてバカでもわかる。いや、バカなのは騙された俺かもしれない。 「離せ!」 「うるさいな〜。いいことするだけだって言ってるだろ」  そう言って俺のTシャツを捲り、ズボンの前を寛げる。 「男初めて? そんなことないか。これだけ綺麗な顔してるんだもんね」  そう言った男は馬乗りになり、他の3人が俺の手足を押さえつける。暴れたいけれど、強く押さえつけられてて動けない。 「あれ? すごい痣じゃん。もしかしてマゾ? だとしたらこのシチュエーションって結構くるんじゃん?」  痣を見られてマゾ呼ばわりされるのが悔しかった。蹴られて気持ちいいなんて思ったことは一度だってない。ましてこんなシチュエーションを喜ぶはずもない。  好き勝手言われていることに悔しくて涙が浮かぶ。4対1。どうやったって敵わない。暴れたくても手足を押さえつけられていて動かせない。  もう無理か、と思った瞬間、草木の向こうに人の気配がした。男たちは押し黙る。助けを呼ぶなら今だ。 「助けて……助けて!」 「静にしろ!」  そう言って口を塞がれてしまうけれど、助けを呼ぶしか今しかなかった。 「誰かいるんですか?」  そう聞こえてくる声は直樹さんの声によく似ていた。まさか。そう思うけれど、草を払って見えた顔はやっぱり直樹さんだった。 「律くん!」 「やばい!逃げろ!」  直樹さんが来たことで男たちは散り散りに逃げていく。 「律くん! 大丈夫?」  そう言って直樹さんは、俺の背を起こして撫でてくれる。 「大丈夫? 何もされなかった?」  そう言って俺の顔を覗き込む直樹さんの顔を見て、俺はぼろぼろと泣き出してしまう。 「大丈夫。もう大丈夫だから。怖かったね。でも、もう大丈夫だから安心して。家に帰ろう」  俺は言葉も発せず、ただただ直樹さんの言葉に頷くしかできなかった。

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