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第10話 なんだこの公開処刑?

「えー、それではこれより、『吊り橋ドキドキ魔物退治』の結果報告会を行います」  会議室の円卓に集まった面々の表情を確認して、ジアはうんざりしたように天井を見上げた。 「それではまず、張本人のジア殿より報告をお願いします」 「え、報告って、一体何を報告すればいいんですか?」 「お二人の距離がどれくらい近づいたか、吊り橋効果はあったのか、是非その辺を詳しくお聞きしたく」  アルバートにそう言われてジアは少し考えたが、取り立てて報告できるような成果は無かったように思えた。 「えっと……俺は魔物退治の事とか、加護を受けた装備の使い方だとか、色々勉強になることが多かったです。殿下の事も少し……あの、魔物退治の腕が素晴らしいとか、知ることができたと思います」 「恋愛的な進展についてはあまり無かったということでしょうか?」 「そうですね、殿下は俺のこと、ただの足手纏いくらいにしか思われなかったかと」 「ふむ、恋愛感情に関しては本人の発言は信憑性に欠く可能性があります。そこで第三者の証言も参考にさせていただきたいと思います。特別参考人ヒカ殿、シン殿、お願いします」  前回の会議時にアルバートが言っていた通り、今回多忙な第一王子エドワード殿下は欠席だったが、その代わりに吊り橋の任務で一緒だった二人の騎士団員が円卓に着いていた。 「第二王子殿下付き騎士団員のヒカです。殿下のジア殿に対する感情は恋愛感情とは言い難いですが、憎からず思っておられることは確かだと思います」 (え、何でそう思った?) 「して、その根拠は?」 「殿下の亡き母上である皇后陛下の形見の短剣をジア殿に渡しておられました」 (えっ? これそんなに大事な物だったのか? ていうか返すのすっかり忘れてた!)  他の装備は城に戻った際に、備品担当者と目録で照らし合わせながら返却したのだが、短剣はウィリアムが直々に貸してくれた物で目録には載っていなかったため、身につけたまますっかり存在を忘れ去っていたのだった。 「同じく第二王子殿下付き騎士団員のシンです。ジア殿は先ほど自分で仰っていた以上に、殿下に対してドキドキされていたと思います」 (えっ、そうなの? ていうかなんだこの公開処刑!) 「ほう、その根拠は?」 「ジア殿は危ないところを殿下に救われ、目の前で殿下の素晴らしい剣捌きを目撃しています。殿下は全ての騎士団員の憧れであり、尊敬の的です。そんな殿下の魔物討伐の様子を間近で見れば、大抵の人間は落ちるでしょう」 (それはただ単にあんたらが殿下に憧れてるってだけの話では……?)  そう内心突っ込みながらも、ジアはじわじわと顔に血が上ってくるのを抑えられなかった。確かにあの重そうな大剣をいとも容易く振り回し、怪物の太い首を一撃で落とした身体能力には目を見張るものがあったし、こちらに背を向けた状態からちらりと振り返った立ち姿が凛々しく、男でも憧れを持ってしまう気持ちは分からなくもなかった。女ならまず一瞬で陥落していただろう。かなり歳下の相手ではあるのだが。 「なるほど、『吊り橋ドキドキ魔物退治』作戦は、とりあえず現時点での目標はクリアできたということでよろしいでしょうか?」  アルバートがジアを見ながらそう確認すると、会議室に賛同の拍手が鳴り響いた。 「それでは今回の作戦を考案したシーナ殿とカイ殿には、金貨三枚の報奨金を与えます」 「やったー!」 「ありがたき幸せにございます」 「皆さんもお二人に続いて、どんどん素晴らしいアイデアを出していってくださいね」 「ちょっと待ってください! またシーナのやつが儲けてますけど、一番頑張ってる俺には何もないんですか?」  ジアが思わず食ってかかると、アルバートは不思議そうな目でジアを見た。 「ジア様は無事お役目を果たした暁には、素晴らしい地位が手に入るんですよ? 金貨三枚なんて端金でしかありません」 「いや、でもその地位って……」 (まさか皇后陛下の座とか言うんじゃないだろうな?) 「時間が押しておりますので、早速次の作戦会議を始めたいと思います」  ジアの話など聞く耳持たず、アルバートはさっさと会議の進行を続けた。 「今回の反省も踏まえて次の作戦を考えたいのですが、ヒカ殿、シン殿、何か意見はありませんか?」  アルバートの問いにすぐにヒカが挙手した。 「ジア殿は魔物退治に関して全くの素人ですし、装備の使い方もよく知りません。次の魔物退治に出る前に、やはり指導を受けるべきだと思います」 「そうですね、小物では殿下の相手になりません。より強い魔物と戦わないと殿下の方のドキドキに期待できませんね。それにはジア殿の訓練が必要でしょう」 「一番理想的なのは、殿下に直接指導していただいて親交を深めることなのですが」  ヒカの進言にアルバートは首を振った。 「それは流石に難しいかと。鍵穴の件でウィリアム殿下のスケジュールが変わったせいで、その穴埋めにただでさえ多忙なエドワード殿下が奔走されています。付きっきりの指導というのは時間を取られるし、厳しいでしょう」 「次に一緒に魔物の討伐に行った際、前より強くなってるっていうのもドキッとするんじゃないですか?」  シーナの意見にアルバートは頷いた。 「そうですね、その方がこちらとしても都合がいいですし。カイ殿、手の空いている団員に彼の指導を任せてもらえますか?」 「承知いたしました」 「しかし次の魔物討伐までお二人に何も接点が無いのは問題です。せめて週に一度は何かイベントを設けるべきかと」 「はいはーい!」  ぴょんぴょん飛び跳ねながら手を上げているシーナを、ジアはうんざりした表情で睨んだ。 (またこいつか……) 「だったらデートがいいと思います!」

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