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第12話 チョーカーってそんな意味があったんですか?

「それでこちらの品を求められたのですね?」  城に戻ると早速アルバートがジアの元へやってきて、本日の買い物の成果をしげしげと眺めた。 「ご自分で選ばれたのですか?」 「いえ、水中で息ができる加護が欲しいと言ったら、ウィリアム殿下がこちらを選んでくださいました。口や鼻に近い位置の装飾品が良いとかで、耳飾りでもよかったんですけど……」  何の装飾も施されていない、至ってシンプルなデザインの金の輪だったが、こっそり値段を確認してジアは目玉が飛び出しそうになった。 (こんな恐ろしい値段の装飾品ばかりなのか? とても自分で選んでこれがいいだなんて言い出せないだろ)  アルバートは右手を金の輪の上にかざして加護を付与しながら、ニヤリと笑みを深めた。 「チョーカーは独占欲の象徴。なかなかうまくいってるんじゃないですか」 「いや、殿下は何も考えておられないと思いますけど」 「それにしても、どうして水中で息ができる加護など所望されたのです?」 「ただ単に俺が泳ぎが得意ってだけで、水中での魔物討伐でならお役に立てるんじゃないかと思ったからです」  ジアは昔から泳ぐのが得意で好きだった。それに水中には美味しい生物がたくさんいて、生きるために泳ぎの習得は必須だったのだ。そしてもし魚のように水中でも息ができたら、と昔から夢見てもいた。今回その願いが叶いそうで、ジアはワクワクする気持ちを抑えきれずにいた。 「他にも欲しい加護はたくさんあったんですけど。そんな高価な装飾品じゃなくても、子供のつけるような安物でいいんで、加護を付与してもらったりできませんかね?」 「ちょっと簡単に言ってくれますけどね、これけっこう大変な作業なんですよ。てか私が簡単げにやってるからそう見えるかもしれませんけど、並の魔法使いができる作業じゃないんですからね。ただでさえ魔法使いは絶滅危惧種だってのに、これできる魔法使いってほんと一握りなんですよ。この私ですらこの作業の後しばらくは魔力を制限されるんですから。乱用していい力じゃないんです。それから安物でいいとか仰いましたけど、高価なものにはやはりそれなりに高い理由がありまして、同じ大きさでも高級素材の方が魔法と親和性が良くて加護もより強力になるんです。だからわざわざ殿下は高価な装飾品を求められたんです。ただの見栄や贅沢じゃないんですよ」 「それは知りませんでした。なんかすみません」  確かに冗談めかしてそう言いながら、アルバートの額には玉のような汗が浮かび上がっていた。 「あなたに加護を付与した装飾品を与えるのは王子殿下の御命令でもありますが、今回に関してはたまたま都合が良かったんです」 「と言いますと?」 「南の漁村から訴えがありました。近頃船乗りたちが姿を消しているのだそうです」  つまり、魔物退治の依頼である。 「唯一生き残って戻ってきた漁師の話によると、沖に出た船から次々と男たちが海に飛び込んで、そのまま帰らなかったそうです」 「みんな自分から海に飛び込んだんですか?」  引きずり込まれたのではなく、自ら進んで死に向かうなんて。ジアは首を傾げた。 「どうして一人だけ無事だったのでしょうか?」 「その漁師は高齢で、耳が聞こえませんでした」 「あ……」  納得したようなジアの表情を見て、アルバートが呼応するように頷いた。 「そうです、セイレーンです」  海の怪物、セイレーン。ジアも名前くらいは聞いたことのある有名な魔物だ。伝説によると、半人半魚または半人半鳥の姿をした女の怪物で、その歌声で船乗りを惑わし、死へと誘うという。 「特殊能力を持った魔物で既に何人か犠牲者も出ているため小物とは言い難いですが、対処法さえわかっていればそこまで強力な相手ではありません。既に正体がセイレーンだと判明しているので、ジア殿が同行しても問題ないでしょう。泳ぎが得意なら尚更都合がいいです。訓練の方の進み具合はいかがですか?」 「装備の使い方は大体分かってきました」  この一週間の間、第二王子殿下付き騎士団長のカイは、自分の配下の騎士団員を毎日交代で派遣してジアに装備の使い方を一通り教えてくれた。元々運動神経の良いジアはすぐにコツを掴んで、前回の吊り橋任務時とは比べものにならないほど装備を駆使できるようになっていた。 「飲み込みが早くて素晴らしい上達具合です」  ジアに稽古をつけてくれた騎士団員の一人がそう絶賛してくれた。 「しかし、魔法の加護とはあくまで補助機能であって、やはり元となる体ができていなければ魔物を倒せるほどの強力な力を発揮することはできません。それは日々の鍛錬の賜物によるもので、一朝一夕では身につきません。それをゆめゆめお忘れなきよう」  ジアは馬鹿ではないので、当然自分と騎士団員たちとの力量差は把握していたため、神妙に頷いてみせたのだった。 「それは良かったです。海上での戦いはやはり人間である我々には不利ですので、どうしても装備に大きく頼らざるを得ません。特にウィリアム殿下は泳ぎがあまり得意ではありませんので」 「えっそうなんですか?」  ウィリアムにも苦手なことがあるなんて。ジアは意外に思った。 「もちろん殿下は泳げますし、装備でどうにでもなるのですが、元々泳ぎが得意な方が装備の能力も上がりますし、そもそも苦手意識が払拭できるわけではありません。精神的に脆弱な部分は隙となりますから、無いに越したことはないのです。その点泳ぎが得意と仰るジア殿は安心です」 「そうですか。お役に立てればいいのですが」 「いえいえ、自分の面倒を自分で見られればそれだけで十分ですよ。くれぐれもセイレーンの首を取ろうなどとはお考えになりませんよう」  もちろんそんなことは微塵も考えていなかったが、いちいち訂正するのも面倒なのでジアは黙って頷いた。

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