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第2話

 目と鼻の先の地面を見つめながら、頭を下げる間際に垣間見た青年の姿を、瞼に描いた。  白粉を塗った白い顔に、薄く紅を引いた唇。その唇が、下卑た笑みを浮かべて、眼差しは鈍く、フィルを見つめていた。  草に群がるハエを一瞥するような目つきである。  軽蔑を含んだ眼差しは、更紗を結ぶフィルの額にむいている。小さな角であろうと膨らみがないのを見て取って、卑賤のものと思ったようだった。 「無礼を、どうかお許しください。こやつは日頃からぼうっとしておりまして……」  同じ麻衣を纏ったフェースが、へつらうようにいった。  その口調に違和感を覚える。  おや、とひそかに眉をよせた。  フェースは日頃からフィルを好ましく思っていないらしいが、フィルを貶めるその声は、それだけではないような気がしたのだ。  なんだ――?  その気味の悪い違和感を紐解こうとして、 「そこの、卑しいおまえ、何をしている」  馬上からとぶ声が邪魔をした。  掠れた声は、僅かな苛立ちを滲ませていた。  馬の周囲に四五人の供をつけ、彼らはみな刀を携えた武士である。その後ろには澄ました顔の使用人が我が物顔で続いていた。その誰もがじっとして動かないのに気付くと、卑しいおまえと彼が呼ぶのは、どうやらフィルのことを指しているらしい。  ――おれか?  思わず、目を上げる。  鞍の上で優雅に腰を据える彼と目があった。  翡翠や真珠をちりばめた冠が、麗々と音を立てる。  角を飾り立てる鈴や金細工は福と繁栄を象徴する文様を縁取っていた。綾を縫いとった錦の華やかな衣の装いは、婚礼の装束を思わせる。 「ぬしが急に飛び出すから、泥がついてしまった。なぜ平気な顔をして突っ伏しておるのだ」 「婚礼……?」  不機嫌な青年の声は耳から耳へと抜けていき、フィルは呆然と口の中で呟く。  俄には信じがたい。そんな思いに駆られていた。  白犀の青年が、婚礼の装束をまとっているということは、番として寄越されたのだ。  犀角の主、カロンへの。  まだ肌に、つぶさに降り注いだ夜春の情が残っている。その熱が、恐ろしげに冷えていくようであった。

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