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第3話 初恋だったんだ

ーーピンポーン 呼び出しチャイムはあるが、のぞき穴はない。そのためチャイムが鳴ってもドアを開けなければ、誰が訪ねてきたのかわからない。 しかし、休日の午前10時に鳴るチャイムに関しては、確認するまでもなく、誰がそこにいるのか、俺にはわかる。 「宅配でーす」 「はーい」 解錠してドアを開けると、そこには黄色の帽子を深く被り、黄色いボーダーのジャンパーを纏った男が立っていた。片手でダンボール箱を担いでいる。 宅配のお兄さんだ。 学園と契約を結んでいる運送会社の人で、それぞれの部屋まで荷物をとどけてくれる。 「今日はちょっと重いよー」 「今日もありがとうございます。うわ、ほんとだ、重っ!」 「気をつけてねー。サインちょうだい」 俺はダンボールを足元に下ろすと、宅配のお兄さんから伝票とボールペンを受け取った。 受取印と印刷されている部分に『南雲』とサインをした。 そう、この荷物は俺のものではない。 同室者、南雲(なぐも)あきらのものだ。週末は俺たちの部屋から一歩も出る事がなく、昼夜逆転した生活を送っている寮内ニートだ。ただし平日は、ちゃんと(出席日数をクリアできる程度には)学校に通っている。 全ての買い物をネットショッピングで済ましているため、この学園で一番宅配のお兄さんを酷使しているのは南雲だ。 今日もきっと夕方頃に起きるのだろう。 俺からボールペンと伝票を受けったお兄さんは、それらを慣れた手つきでウェストポーチに収めた。黄色い帽子のつばを下にひっぱり、さらに深く被る。 「んじゃ南雲くん、また来週」 「はーい。おつかれさまです!」 駆け足で去っていくお兄さんを見送って、ドアを閉めた。 良かれと思い軽い気持ちで南雲のサインをしてしまってから、およそ一年半、俺は南雲であり続けている。ここまでくると、今更訂正する必要もない気がして、放置している。 床に置いた荷物を、もう少しだけ部屋の中へ移動させようと思い、遠慮なく足で押した。 ーーピンポーン 部屋の中にチャイムの音が響いた。 もうひとつ荷物があったのかなと思い、俺はドアを開けた。 「迎えにきたよ、約束を」 が、即座に閉めた。 「はやい、はやいよ!まといちゃん!『約束を果たしに』って言わせて!ねぇ!開けて!おでかけするよ!はい!ね、いるのはもう分かってんだから!出てきて!あ、すっぴんだから、恥ずかしいのかな?大丈夫!まといちゃんレベルならおめかししても変わらないからさ!普通でよかったね!」 「だまれ!!」 俺はドアを叩くと、すぐに両手でドアノブを握った。 部屋の前に立っていたのは、スーツに姿の早川ヒカルだった。 本気か? 「怒った?ごめん、半分冗談だよ!ぁ、でも、お出かけするのはほんとだよ!もう外出届けもだしたし!ねぇ、出てきて、まといちゃん!…まといちゃん?着替えてるの?てつだおっか?」 「いらねーよ!つーか着替えてないし、お出かけもしなうお、おっ、お」 「あれ?鍵かけないと、変な男が入って来ちゃうよ〜?」 不覚。一生懸命ドアノブを引っ張っていたが、あっけなくドアを開けられてしまった。我ながら馬鹿すぎる…!まず鍵をかけるべきだった。 早川は玄関へ押し入ると、壁に手をついてモデルのようなポーズをとった。 「おはよう」 「動くなよ、一歩でも動いたら不法進入で警察に突き出してやる」 「安心してよ、一歩も動かないから。まーね、俺もバカじゃないからさ、まといちゃんが俺について来てくれるとは思ってないよ」 「じゃあなんで来たんだよ」 「お詫びだよ」 「はぁ?」 「まといちゃんに金玉蹴られて、悪い事しちゃったなぁって気付いたんだ。俺、まといちゃんに嫌われたくないし、てかね、メンタル弱いから、人から嫌われるの、もー超耐えらんないの。だからさ、仲直りしませんか?」 「え、やだよ」 「はやすぎ!うん、そういうとこも結構好きだし、もう嫌がることしないからさ、チャンスくれない?ホテルのランチビュッフェに招待させてよ」 そう言って、早川はスーツの内ポケットから、ランチビュッフェご招待券を3枚取り出した。 3枚? 「俺と二人きりは嫌だと思って、もうひとりまといちゃんの誘いたい人誘っていいよ。あ、これ貰い物だから遠慮はなしね。いろいろあったけど、ぜんぶこれで水に流しませんか?」 最近の俺はよく選択を間違える。 「すっごく美味しかった!誘ってくれてありがとう!早川くん!!と、塩谷くん」 「どういたしまして。山ちゃんて結構食べるんだねー」 「えっ、僕そんなに食べてた?やだ、恥ずかしい……美味しくてつい!えへへ」 ついってレベルじゃないぐらい食べてたけど。 早川と山本くんが楽しそうにお喋りするのを、俺は仏のような顔をして眺めていた。 確かに、料理は美味しかった。 山本くん程ではないが、俺だって和食も洋食も中華も全部堪能した。 それに今日の早川は爽やかでオシャレ(スーツだし)だし、誘った山本くんは超楽しそうだし、困ったことに、何ひとつ困ったことがない。 山本くんを誘ったのは、絶対に断らなさそうだったし、山本くんが早川の相手をしてくれると思ったからだ。計画通りといえば計画通りだが、ここまで上手くいくと、逆に心配になる。早川にはいろいろとされたが、俺だって殴ったり蹴ったりしているのだ。それなのに、こんなおいしい目にあってていいのだろうか。 「ねえ早川くん、僕ずっと気になってたんだけど、なんでスーツなの?」 「あー、俺ビンボーだからさ、こーゆー上流階級が集まるところ行ったことなくて。スーツで来るもんだと思ってたんだけど、ラフな格好の人の方が多いんだね。俺もフツーの格好してくればよかったー」 「僕は、スーツ、良いと思うよっ…!かっこいいし……、似合ってるし!早川くんのスーツ姿……僕好きだよっ!ぼ、僕、デザートとってこよおっと」 山本くんは頬を赤らめて、7回目のデザートタイムに突入すべく、席をたった。 俺も何故スーツを着ているのか気になっていたけど、単に似合うから着ているだけかと思っていた。 早川は、学費や生活費も自分で稼いで払っている。それなのに、その商売道具に傷をつけるなんて……俺は何てことを……! いやいや、殴った事に関してはすでに土下座をしている。危ない危ない。お腹が満たされて、だんだん早川が良い奴に見えてきて、自分の方が悪い奴のように思えてきた。トントンだよな?本当に?トントンか?なんか自信が無くなってきた。 紅茶を啜りながら、早川を見ていると、目があって微笑まれた。 「まといちゃんの私服姿ってはじめて見たけど、センスいいよね」 「へ!?おれ!?べ、別にセンスよく、無いし」 「えー、そうかなー!だってそのTシャツ、雑誌で見たよー。俺欲しいなーって思ってたし」 「え??雑誌に載ってたんだ、これ。服買いに行っても、店員さんにお任せだから、店員さんがセンスいいんじゃないか、な」 「でもちゃんと着こなしてるからさ、センス良いんだよ」 「そ、そんなこと、ねーよ……お、お前の方がセンス良いだろ」 「あはは、ありがとうー」 なんてこった。こんな褒める要素なんてひとつもない男(俺)から褒め要素を見つけ出し、なおかつ最終的に早川のことを褒めらされてしまった。 早川はテーブルの上に肘をつき、手の甲に頬を乗せた。 「俺、まといちゃんと仲直りできそう?」 「聞くなよ、そういうもんは肌で感じろ」 「え、それって肌と肌で確かめ合おうってこと?」 「やっぱお前とは仲直りできねーわ」 「うそうそ!考えるな、感じろ!ってことだよね、うん、おっけー。大丈夫、ちゃんと感じてるよ」 「ほんとかよ」 俺もテーブルに肘をついて、掌に頬を乗せる。仲直りできたかどうかは置いといて、今日は来てよかったなーなんて思ってるんだ。美味しかったし。 「ねー!すごいよ!デザート取りに行ったんだけど、隣ですっごく大きなステーキ焼いてたから、貰ってきちゃった!」 「うわっ」 「おいしそうだねー」 山本くんは、そのすっごく大きなステーキをお皿の上に乗せて帰ってきた。思わずうわって言っちゃったけど、本当にデカイ。なんでそれが入るんだ。どうなってんだ山本くん。お腹いっぱいの俺には、山本くんが食べているのを見るのも辛い。早川に至っては目を瞑っている。 「俺、ちょっとトイレ行ってくる」 食べ終えた頃に戻ろう。俺は、レストランを出ると、ロビーへと向かった。あそこにはとても座り心地の良さそうなソファーがたくさんあった。 俺は、ロビーの中でも外の景色が見えるソファーに座った。外のガーデニングでは、結婚式が行われているみたいで、花弁が舞う中、ウエディングドレスを着た花嫁が幸せそうに笑ってて、その背後には海が広がっていた。これが噂の太平洋。太陽の光が、反射して、キラキラ光って、綺麗だ。……眠い。 いかんいかん。寝てはだめだ。うとうとしかけたので、勢いよく立ち上がった。トイレに行ってレストランに戻ろう。ロビーを後にしようとしたその時、腕を掴まれた。俺はびっくりして、咄嗟にその腕を振り払った。眼鏡の男も驚いたように目を見開いた。 デジャヴ。 「ピアニカ男……!」 「陽気なあだ名をつけるのやめてくれないか……」 「すいません……。てか、何ですか?」 「え、あ……何でもない」 「いやいや何でもないなら腕掴まないですよね。ここが電車で俺が女性だったら痴漢ですよ」 「でもここは電車じゃないし君は女性じゃない」 「そうですけど!何でもないのに腕掴まれるとびっくりするんですよ!」 ピアニカ男は腕を組んで下を向いた。ついでにため息もついた。なんでだよ。何でそっちの方が迷惑そうにしてるんだよ。お前が引き止めたんだろ。音楽室でも、ここでも。 「ていうか、なんで眼鏡さんはこんなところに」 「結婚式だ」 「そ、それはそれは、おめでとうございます。末長くお幸せに」 「言っておくけど、俺のじゃない。従姉妹のだ。あと、眼鏡さんと呼んだな?普通くんはどうしてここにいるんだ」 「俺は友達と……く、クラスメートとランチビュッフェです」 ナチュラルに自分の口から『友達』という言葉が出てきて恥ずかしくなってしまった。何も恥じることはないのに。 そういえば、外で結婚式やってたな。 ということは、あの花嫁がピアニカさんの従姉妹か。 「てか良いんですか?まだ結婚式の途中じゃないんですか?」 「良いんだよ。どうせ写真撮影してるだけだから」 「眼鏡さんも一緒に撮って貰えばいいのに。綺麗な花嫁さんと」 「どこが。全然綺麗じゃないよ」 「綺麗じゃないんですね」 「綺麗だよ!」 「どっちだよ!」 「……っ綺麗じゃない…ぜんぜん、ふつうで、どこにでもいるような……ひと、だったのに」 突然、眼鏡さんの目からポロポロと涙が出てきた。訳が分からないが、とりあえず立ったままでは目立つので眼鏡さんの腕を引っ張って、すぐ近くのソファーに座った。 「おいおい、泣くなよ。眼鏡が濡れるぞ」 眼鏡さんは何も言わず、メソメソと下を向いて泣いている。 何となく、察しはついた。多分あれだろう。花嫁の事が好きだったんだろう、この眼鏡。 「お、お前は、よく頑張ったよ。ちゃんとスーツきて、こんなとこまできて、式もでたんだろ……?後もうすこしだから、泣くなよ」 俺は隣で少し小さくなっている背中をさすった。すると、だんだんと背筋が伸びてきて、眼鏡さんは俺の方を向いた。 「す、ひっく、す、ぐ、す、う、す、好きだったんだよぉ〜〜〜」 彼の腕が、俺の背中に回される。 「おーおーわかったわかった落ち着け、泣き止むんだ。見られるぞ。バレるぞ。お前が泣いてたって親戚中で話題にされるぞ。お前が泣いていいのはここじゃないんだよ。全部終わって、うち帰って、布団にくるまって泣け」 遠慮がちに背中をぽんぽん叩いてやった。しばらくそうしていると、上下に動いていた肩も落ち着いて、背中に回された腕が下にストンと落ちた。眼鏡さんはピンと立ち上がり、人差し指で眼鏡をクイっとあげた。眼鏡は涙でぐじゃぐじゃになっていた。 「ごめん」 彼は、そう一言だけ言い残して、足早に去っていった。 俺はほっとして、ソファーに深く座り込んだ。背もたれに身体を預けて、目を閉じて息を吐いた。 疲れた。クラスも、きっと学年も違う人だ。学園で会う事もそうそう無いだろう。ひと学年何人いると思ってんだ。名前も知らない。金曜日の昼休みに音楽室に行かない限り出会わない。そして俺はもう行かない。よし。 俺は目を開けた。 「おおおい、近い近い近い!!!!!」 「おしい!あとちょっとだったのに!」 目の前に早川の顔があった。必死でその顔を押し返す。 「おまえ、ここ何処だと思ってんだよ!」 「え?あ、海の見えるホテルだね!」 「た、たしかにそうだけど…!くそ、油断してたぜ。俺の嫌がる事はしねーんだろ!」 「いつの話?そんな昔の話忘れちゃったよ。まといちゃん遅いんだもん、こんなとこでくつろいじゃってさ。ね、このあとどうする?ホテルと、まといちゃんの部屋と、俺の部屋、どこにする?ていうかどこでする?やっぱオーシャンビュー?オープンザウィンドー?」 早川は俺の両手に自分の両手を絡ませると、そのまま俺を引っ張って立ち上がらせた。俺は手をぶんぶん振って早川の絡みつく手を剥がそうとしたが、全然剥がれない。 「指を絡ませるな!このあとは解散です。お疲れ様でした」 「おっけー!一度解散して、後から落ち合うやつでしょ?」 「ちげーよ!ていうか、ほら!山本くん!山本くんがビュッフェを食い散らかしてしまう前に、止めなきゃ」 「もう、しょうがないな……じゃ、後でね!」 「後はねーから」 俺たちは二人並んで山本くんの待つレストランへ向かって歩き出した。 「え?山本くん、寮に帰らないの?」 「うん、もともと実家に帰るつもりだったし。明日お祖母様の誕生日なんだ」 「そうだったんだー、なんかごめんね、急なお誘いで」 「ううん!!全然!!!今日は本当に楽しかったよ!!!ありがとう!!!早川くん!!塩谷くんも。それじゃあ月曜日、また学校でね!」 山本くんは胸の前で小さく手を振ると、駅のロータリーに止まっていた黒くて長い車に乗った。残された俺たちはその車が走り始めて見えなくなるまでずっと眺めていた。 「ふたりっきりだね」 「周りをよくみてみろ、人だらけだ」 「余所見しないで俺だけを見てよ」 「いやだよ。帰るぞ」 「え、まといちゃんの部屋に?」 「俺だけな。お前はお前の部屋に帰るんだよ」 早川とふたり、電車に揺られ1時間30分。寮の最寄駅に到着した。その間俺達はずっと無言だった。というか爆睡してた。 改札を出て徒歩15分。あと100メートルで寮に着くというその時、ずっと言おうと思っていた事を言った。 「早川、お前、スーツによだれついてるぞ」 俺は早川の左胸を指さした。 左胸のあたり、生地の色が変わっていた。電車に乗る前には多分無かったし、早川も爆睡していたから、あれは涎のあとだ。恥ずかしいやつ。 早川は俺に指さされた部分を見た。 「あ、これ?まといちゃんのだよ」 「は?お前のスーツに付いてんだからお前のよだれだろ」 「俺の肩に頭のせてよだれ垂らしながら気持ちよさそうに寝てたよ」 「……いや、それは、ない。ないない。絶対ないけど俺がクリーニングに出しといてやるよ。脱げ」 「自分に自信がもてないんだね」 「違う。美味しいランチビュッフェのお礼だ。早く脱いでくれ」 俺がスーツに手を伸ばすと、早川はその手を掴んで上にあげた。 「もういっかい」 「……は?」 「はやくぬいでくれって、もう一回言って」 「い、言わねーよ!!」 「言ってくれないと、俺、このスーツで…………はぁ」 「このスーツで……何だよ!こえーよ!ふざけんなよ、今すぐ脱げ」 「まといちゃん、そんな性急な、こんな道端で!そんな顔して!でも、もう我慢できないんでしょ?いいよ、俺、脱いでも」 早川は俺の手を離して、スーツのボタンをはずし始めた。すぐに俺は早川の手が届かない所に移動した。 「もういいよ着てろよ!そしてまわりからこいつスーツによだれ垂らしてやんのと思われてしまえ。以上、解散」 そう言って早川を置いて寮に向かって歩き始めた。 結局、何ひとつ水に流れてない。 美味しいもの食って、楽しんで、息巻いて。 「まといちゃん、ありがとう!」 あーもう! 「ごちそうさまでした!」 「に、にもつ……あ、ありがと………おもかった……よ、ね………」 珍しくベッドルームから南雲が出てきた。台所でカップ麺にお湯を入れている時、後ろから声をかけられた。 「あぁ、すぐ床置いたし。何買ったんだ?本?じゃがいも?」 「………ひみつ……」 「そう……」 会話が続かない。もっと突っ込んでもいいのか?なんだよエロ本かよとか言っても良いのか?未だに距離感をはかりかねる。いや、これがもう、俺と南雲の距離感なんだろうな。 ーーピンポーン 「宅配でーす」 こんな時間に珍しい。俺は思わず南雲を見た。南雲は口を開けて固まっていた。 仕方なく、またいつものように俺は南雲としてドアを開けた。南雲には同室者の塩谷くんになってもらおう。 「あ、だ、ちが」 「そんなに簡単に開けちゃったら、変な男が入って来ちゃうよ〜!」 「うわあ」 変な男こと早川ヒカルが入って来てしまった。俺は驚いて玄関に尻餅をつくと、そのまま早川に押し倒された。 「デザート、忘れてた。いただきます」 「はっ、んん〜〜っ」 俺の唇はあっけなくいただかれてしまった。 「はや、や……ン…ふ、んぁ」 本当にこいつは容赦ない。息もさせてくれない。食べるみたいにキスしてくる。 俺のものか早川のものかわからない唾液が頬を伝う。 たぶん、俺のものだ。 ゴツ 「うっ………」 「ぷはっ」 鈍い音がして、早川の身体が動かなくなった。 「だ、だいじょう、ぶ?」 壺を抱えた南雲が俺を見下ろした。 お前、それで殴ったの?ていうかそれ買ったの? 「ありがとう、助かった」 もぞもぞと、早川の下から抜け出した。 一応死んでないか首に中指と人差し指を当てて脈を図る。生きてる。 「ど、どう、する?とどめ」 「とどめはささないよ!死んじゃうからね!」 起き上がって南雲から壺を奪う。とりあえずこれは床に置く。 「け、けいさ、つ」 「あー、大丈夫、友達なんだ、こいつ」 「え、そう、だった、の?ごめん」 「いや、こっちこそごめん」 「……ど、うする?」 「このままでいいよ」 「いいの?」 「いいよ、慣れてるはずだから」 俺はゴシゴシと唇を拭った。

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